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【検証】レンズの保護フィルターは光学性能を低下させるのか?

レンズの保護フィルターを装着すると光学性能が低下する」と聞いた事がありませんか?

結論としては、収差的には光学性能はほとんど低下しませんが、実写上はデメリットも存在します。

この記事では、レンズのフィルターに関する疑問を光学シミュレーションソフトを利用してわかりやすく検証します。

結像性能は変わらない

レンズの前側(被写体側)へ装着する「保護(プロテクト)フィルター、PLフィルター、NDフィルター」などの平板ガラスのフィルターは光学的には収差が発生しません

これは遠距離から到達する光(平行光)は、すべての光線がフィルター内部を通過する際の角度変化が同じとなるためです。

よって「レンズ前にフィルターを装着しても結像性能は変わらない」がひとつの結論です。

わかりづらいので具体的にシミュレーションで検証してみます。

光路図の見方や収差などについての解説は以下の関連記事をご参照ください。

関連記事:光路図の図解球面収差とは

検証 前側にフィルターを装着

左側の図にはフィルタ無し(NoFilter)の光路図、右はレンズ前側にフィルターを装着した(On Filter)光路図です。

基準のレンズはSIGMA 50 F1.4を利用しています。このレンズのフィルターサイズはφ77mmです。

フィルターのガラス厚みはメーカーや品種により違いますから、正確にはわかりませんが手元の物から見た目で3mmとしました。

この状態でまずは縦収差図を確認します。

左から球面収差像面湾曲歪曲の収差図です。

左右の収差図を見てください、まったく変わりません。

さらにMTFでの結像性能変化も精密に確認します。

左右のMTF特性図は、まったく変わりません。

厳密には無限遠(極遠い距離)側の撮影では収差への影響はありませんが、近距離の撮影になるとわずかに影響が出ます。

 ※確認困難な微小量なので割愛します

ただし、マクロ撮影のような超近接撮影では影響が大きくなる可能性はあります。

加工誤差の影響は?

雑誌の記事でフィルターの表面が歪んでいる写真を見たことがある方もいると思いますが、両面が同じ歪み方ならば光学的には収差への影響はありません。

片面だけを測定すると歪んで見えることがありますが、表裏2面の関係に「歪みの差」がなければ問題無いのです。

一般的にフィルターのような平板は、両面を同時研磨で加工するので、両面の歪み量はほぼ同じになり差がありません。

一般ユーザーの気にするような量の加工誤差は乗りません。(ただし国産メーカーの話)

マルミ光機の工場の様子が以下のリンク先にありますので加工の様子も参考にしてください。

 外部関連記事:マルミ工場

完全に国産みたいですね。きっとすばらしい品質なんでしょう。

検証 反対に装着するとどうなるか

より理解を深めるために普通の製品では不可能ですが、後ろ側(撮像素子側)にフィルターを装着するとどうなるのか?検証してみます。

左右の図ともに撮像素子のすぐ前には薄い平板ガラスが入っていますが、これは撮像素子(COMS)の前にあるローパスフィルタや保護ガラスです。

右の図は、普通はありえませんが、レンズの後ろ側へフィルターを装着しています。

この状態で縦収差を確認してみましょう。

球面収差と像面湾曲が右側(プラス側)へ倒れます。

縦収差ではわずかな変動に見えますが、MTFで詳細を検証してみましょう。

画面中心(青)の特性を見ると山の高さは10ポイント近く低下しています。周辺部はもっと落ちている個所もあります。

レンズの前側へフィルタを装着しても無限光(平行光)では収差の影響はありませんが、後ろ側へ装着しますと角度を持った光の場合はフィルタを通過する光路距離が異なってくるためその差が収差となって表れるのです。

ただし、一般的にはレンズの後ろ側にはフィルターを装着しませんので問題ありません。

一部の超望遠レンズは、後ろ側に専用フィルタの装着を前提としたレンズがあります。

そのようなレンズはフィルターの装着込みで最適化された設計がなされておりますので性能は変わりませんのでご安心ください。

豆知識ですが、デジタルカメラ黎明期のレンズは「デジタル対応設計」と表示され販売される物がありましたが、これは「撮像素子前のフィルターによる収差変動を考慮した設計」とも言えます。

逆の理由で、オールドレンズをデジタルカメラに装着すると、撮像素子前のフィルターの影響で、本来の性能よりも少し低下します

ゴーストには注意

フィルターを前側に装着する分には結像性能は変わりませんが、レンズ内部での反射材料が増えるためゴーストが増加する懸念があります

ゴーストとは主に逆光や夜景で発生するものです。ゴーストのサンプル写真を記載します。

画面左上は太陽で逆光の撮影です。右下に楕円のゴーストが激しく出ていますね。

この種のゴーストは、レンズ表面での乱反射が原因です。

ゴーストは、元のレンズ側の特性に大きく依存しますから、フィルター装着により必ず悪くなるとは言えません。

しかし、フィルター装着による反射物が増えるため懸念材料は増加することになります。

そこで対策としては、フィルター自体に高級コーティングを施した物が近年とてもお安くなりましたので「コーティング(透過率)の良いフィルターを購入すること」をお勧めします

透過率が高いということは、フィルタ表面での乱反射の強度が低下し、ゴーストが薄くなり写真では見えずらくなります。

マルミ光機の製品は「0.2%」の超低反射率でありながら高強度+防汚機能も付いている恐ろしく高機能なフィルターです

大雑把に表現すると、「コーティングの無しレンズの反射率は4%」ほどで、古いレンズに使われていた「単層コーティングは反射率1%」程度で、単層は光の波長により特性値が大きく異なります。

単層コーティングに比較するとマルミのフィルターがいかに低反射率で高機能かおわかりいただけたでしょうか。

マルミ光機
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フィルターなんてすでに枯れた技術の製品だと思っていたのですが、いまだにすばらしく進化するものですね。

画質にこだわるなら某大手通販サイトで売られているような出生不明な激安中華フィルターはやめましょう。

また、ケンコーのZXIIは反射率は脅威の「0.1%」これは衝撃の超低反射率です。

プロテクトフィルター装着によるゴーストの発生を気にする必要は無い時代が来ましたね。

最後に、HKUBAの商品は「反射率0.3%」で数値はわずかに劣りますが、実用上は十分高性能と言える仕様で、お値段とのバランスが良いようです。

まとめ

フィルターを装着しても結像性能は低下しませんが、ゴースト悪化の懸念は存在します。

しかし、近年の高性能フィルターを装着すればゴーストもかなり緩和できると思います。

良いフィルターには「高いだけの価値がある」と言うわけでした

記録メディアは、事故防止のため信頼性の高い物を使いましょう。

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

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