当記事は、レンズの性能指標のひとつ「スポットダイアグラム」に関する説明記事です。
当ブログは、これまでもレンズの性能指標である「収差」について、その意味や定義についてこの世で最もやさしくわかる記事を制作してきました。
カメラのレンズは、「被写体」から放たれる光を正確に撮像面(フィルム/COMS)へ「集光」させることを目的としています。
しかし、正確に集光させることは難しく、どうしてもズレるそのわずかな量が「収差」です。
収差は、レンズの性能をごく断片的に数値にしたもので、大小の比較はしやすいのですが、収差図だけを見ても実写としてどれだけ影響があるのかイメージするのは難しいものです。
そこで、レンズ性能をより良く知るために収差と供に使われる代表的な評価方法が「スポットダイアグラム」です。
当ブログのレンズ評価記事でも、収差とスポットダイアグラムを合わせて掲載し、レンズの性能をよりわかりやすくしています。
例えば球面収差とは
あらためて、最も基本的収差である球面収差について簡単に振り返ってみます。
球面収差とは、レンズの中心に集光する光の様子をグラフにしたものです。
関連記事:球面収差
レンズ性能の最も基本となる指標ですが、球面収差にはひとつ問題があります。
球面収差は、光の進む方向の収差(縦収差)なので、実際に写真として写る映像の質とは印象が一致しません。
そのため球面収差と実写の相関関係が掴みづらいことがあります。
この球面収差の説明図に記載している「実際に写るズレ」の赤矢印の部分を図示したのが「スポットダイアグラム」に相当します。
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1枚のレンズのスポットダイアグラム
スポットダイアグラムとは、レンズ性能を評価する最も代表的なシミュレーション手法です。
レンズに入射する光を1本の線として定義し、撮像素子上での位置のズレを2次元断面のグラフとして表示します。
わかりやすく1枚だけのレンズを使って説明しましょう。
この図はレンズ焦点距離35mm Fno2.0の仕様ですが、1枚だけで構成しています。
簡単のために画面の中心に集光する光の様子のみを示しています。
被写体から放たれる光をいくつかの線として表現しています。
収差の無いレンズなら光は綺麗に1点へ集まるはずですが、たった1枚のレンズでは1点に集めることができず拡散してしまいます。
この集光状態を撮像素子側から(前から)見るのがスポットダイアグラムになります。
光路図と同じスケール感でスポットダイアグラムを作成してみました。
光が1点に結像しておらず広がってしまっています。
散らばりの様子がわかりづらいので「4倍に拡大」してみます。
4倍に拡大してみますと、ある程度は中心に集まっていますが、周囲にまばらに散らばることがわかります。
収差の補正されたレンズ
次に収差の補正された一般的な写真レンズではどうなるのか、確認してみましょう。
先ほどの1枚レンズと同じ焦点距離の35mm Fno2.0のレンズとしてNIKON Nikkor35mm F2.0Dを例にします。
1枚レンズと同様に画面中心入射する光のみ表示しました。
だいぶ設計された年代の古いレンズですが、十分に収差が補正されているため撮像素子上では1点に集光しているように見えます。
スポットダイアグラムではこのようになっています。
光路図と同じスケール感でスポットダイアグラムを描画すると極小の点です。
詳細に見れば収差が少し残っています、確認のため思い切って「2000倍に拡大」してみます。
2000倍にまで拡大して確認すると、中心に多くの点があり光が集まっているものの、周辺に散らばる様子が見えてきました。
色収差の評価
通常の撮影は白色光の中で撮影しますから、様々な色の光が混ざる状態で撮影されるため、色収差が発生します。
スポットダイアグラムでも色収差の影響を確認するために、当ブログでは収差図と同じ4色の代表的な光の波長(色)でシミュレーションし、結果を重ねて表示しています。
先ほどと同じNikkor 35mm F2.0Dの画面中心のスポットを光路図のおよそ2000倍のサイズで表示しています。
光の波長(色)は収差図と同じくd線(黄色)、F線(水色)、g線(青)、C線(赤)の4色としています。
この状態では赤のスポットは小さく、青や水色は散らばりが大きいことがわかります。
例えばワイシャツのような真っ白な被写体を撮影すると輪郭部分に「青系のにじみ」が出るのだろうと推定されますね。
なお、光の波長と色の関係は下図を参照してください。
スポットダイアグラム
ここからは当ブログのレンズ分析記事に掲載しているスポットダイアグラムの配置についての説明に入ります。
まずは、当ブログへ掲載しているスポットダイアグラムの例をご覧ください。
上の図はレンズ分析記事でのスポットダイアグラム項に記載しているいつもの表示スタイルですが、「縦に5個x横に5個」の図を並べています。
それでは「縦方向の並び」と「横方向の並び」それぞれの配置の意味を順に説明します。
横方向の並び:ピント方向の評価
スポットダイアグラムの横方向の並びは、「ピントの合った部分」と「ピントのズレた部分」を同時に見るために表示しています。
立体物を撮影する場合、必ずピントの合わない部分が生じます。
ピントを適正に合わせた主被写体よりもカメラに近い側のボケている被写体を「前ボケ」、主被写体よりも遠い側のボケたところを「後ボケ」と表現されます。
「適正ピント」「前ボケ」「後ボケ」でどのような画質特性となるか分析することが可能となります。
光路図とスポットを並べて説明図を作りました。
光路図で最も光が集まる「最適なピント位置」のスポットダイアグラムを中心に、少しピントのズレた位置での評価を同時に行っています。
縦方向の並び:像高方向の評価
スポットダイアグラムの縦方向の並びは、像高特性を見るために表示しています。
像高とは、画面での位置のことで中心を像高0mmとして6mm、12mm、18mm、21mmの位置における性能を表示しています。
この像高はフルサイズセンサー(135フィルム)における値ですが、APS-Cサイズ用のレンズの場合は同比率になるようにスケールを調整してあります。
また、像高の分割は光路図の表示とも同じですが、計算ソフトの都合で上下が反対となりますのでご注意ください。
スポットダイアグラム図では、画面の周辺(外側)の特性ほど、図では下側に表示されます。
像面湾曲や歪曲の図は、グラウが上に行くほど画面周辺の特性で、スポットダイアグラムとは逆向きとなるのでご注意ください。
まとめ
スポットダイアグラムは、光学性能をイメージ的にとらえるために重要な指標です。
最後にまとめとしてスポットダイアグラム図の配置と定義について1枚の図としてまとました。
横方向はピント方向、縦方向は像高方向となります。
スポットダイアグラムは光学性能のほとんどを示し便利な指標ですが、情報量が多すぎるため比較が難しくどこがポイントかわかりづらいなどの難点もあります。
そのため、球面収差などの縦収差や横収差へ分解し、合わせて評価することが重要です。
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