ニコンの一眼レフカメラ用のFマウントシリーズより標準ズームレンズ AF-S ニッコール 24-120mm F4.0の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
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レンズの概要
AF-S NIKKOR 24-120mm F4は、NIKONの一眼レフカメラ用の交換レンズFマウントシリーズのなかでも後期の製品です。
まずは、NIKONのズームレンズから代表的な類似仕様の製品について系譜を見てみましょう。
- Ai Zoom Nikkor 35-105mm F3.5-4.5S(1983)12群16枚
- Ai AF Zoom Nikkor 24-120mm F3.5-5.6D(1996)11群15枚
- AF-S NIKKOR 24-120mm F4G ED VR(2010)13群17枚当記事
- NIKKOR Z 24-120mm F4 S(2022)13群16枚
NIKONのFマウント用のズームレンズは、システムの発祥時の1960年代から存在します。
例えば、標準ズームならZoom Nikkor Auto 43-86mm F3.5 が1963年に発売され手軽で安価なことからベストセラーになったと言います。
しかし、1960年代のレンズはズーム域がまだまだ狭いものでした。その後、1983年発売の35-105mm F3.5-4.5ともなると一般的な撮影範囲を1本のレンズでカバーできる製品が登場します。
さらに1996年には焦点距離域がより広がったAi AF Zoom Nikkor 24-120mm F3.5-5.6が登場し、広角域から中望遠域の撮影範囲をカバーしたレンズが実現されています。
ついに2010年になると当記事のAF-S 24-120mm F4.0が発売され、24mmの広角域から120mmの中望遠域をカバーし、さらにズーム全域でF4.0の明るさを実現したレンズが登場しました。Nikkor 43-86mm F3.5の発売から実に約50年後もの歳月を必要としたのです。
さて、NIKONのカメラ史からAF-S 24-120mm F4.0の発売された2010年を振り返ると、少し前の2007年にNIKON初の一般向けフルサイズ一眼カメラ「NIKON D3」が発売されています。
このNIKON D3からフルサイズ一眼レフカメラの普及が始まったまわけですが、当記事のAF-S 24-120mmが発売された2010年と言うのは、それまで主流であったコンデジやAPS-Cサイズの一眼レフからフルサイズ一眼レフカメラへ移行が進んだ、まさに転換期でありました。
その後、2015年あたりまでフルサイズ一眼レフカメラは爆発的に普及し、標準ズームである当記事のAF-S 24-120mmはカメラと同梱販売(キット販売)も行われ、まさに拡大期を支えた縁の下の力持ちと言えるレンズです。
私的回顧録
『〇〇ズーム』
標準ズームと言っても様々な仕様のレンズがあり、JIS(日本産業規格)やCIPA(カメラ映像機器工業会)で名称の定義があるわけではないのですが、慣習的に「焦点距離50mmを挟む仕様であること※1」が標準ズームの条件であることはご存じでしょう。
フルサイズ(135mm版)カメラの標準レンズとは、すなわち焦点距離50mmであることは業界のデファクトスタンダードです。
※1:正確にはフルサイズ換算で焦点距離50mm相当
執筆現在(2023年)、一般的に標準ズームと言われる焦点距離の仕様は、28-70mmとか24-70mmあたりでしょうか。
一方で、望遠域を大きくの延ばした28-300mmのような製品は高倍率ズームレンズと言われています。
望遠端の焦点距離を広角端の焦点距離で割ったものをズーム倍率(変倍率)と言い、標準ズーム24-70mmなら約3倍、高倍率ズーム28-300mmなら約10倍になります。
望遠端焦点距離 ÷ 広角端焦点距離 = ズーム倍率(変倍率)
また、世の中には「便利ズーム」との表現もあるようですが、一般的にほど良く小型で便利の意味から「28-200mm」あたりの仕様を指すようです。便利ズーム28-200mmなら倍率は約7倍ですね。
そんな中で毎度悩むのが当記事のAF-S 24-120mmのような製品で、24-120mmならズーム倍率が約5倍です。
ズーム倍率が5倍ともなると標準ズームと言うには高仕様ですし、高倍率と言うには少々物足らない、便利ズームの名は取られた…なにかベストフィットする二つ名が欲しいものです。
いっそのこと「中倍率ズーム」とでも言ってくれるとスッキリするのですが、あまり聞いたことの無い表現ですよね…
金銀銅になぞらえるなら「銀ズーム」、松竹梅なら「竹ズーム」なのでしょうが、さらに一層のこと聞いたことがありません。
「24-120mm」これ不思議とフィットする名前の生まれない気難しい仕様域のレンズなのです。
メーカーの方からするとそこそこにFnoが明るくズーム倍率も高いのですから「万能ズーム」と呼んでもらいたいのかもしれませんね。
文献調査
当記事のレンズNIKON AF-S NIKKOR 24-120mm F4.0 Gの記載された特許文献は特開2010-175899の実施例1であることは掴んでおりましたが、この種の安価系ズームレンズは製品数も多く性能も特筆すべき点が少ないため、分析対象とするか迷っておりました。
ところが、最新のミラーレス一眼用にリニューアルされたNIKKOR Z 24-120 F4.0 Sが非常に高性能との噂で、ついに特許も公開されましたのでこれを機に分析することにいたしました。
それでは、先ほどの文献の実施例1を設計データと仮定し以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がNIKON AF-S NIKKOR 24-120mm F4.0 Gの光路図になります。
本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mmの状態です。
英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。
一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。
レンズの構成は13群17枚、第4/7/15レンズは球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズであり、色収差の補正に好適なEDガラスを3枚採用しているようです。
続いてズーム構成について以下に図示しました。
上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。
ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。
第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると被写体側へ飛び出す方式です。
第1ユニット全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、これを凸(正)群先行型と表現します。
この凸(正)群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。
高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸(正)群先行型と見て間違いありません。
凸レンズ群が被写体側にある構成をテレフォトタイプ(望遠型)とも言い、凸レンズ群の収斂作用で大きくなりがちな望遠レンズを小型にする効果を発揮します。
第2ユニットは、ピントを合わせるためのフォーカシングユニットともなっており、ズームとは別に前後に稼働できる構造です。
一眼レフカメラ用の高倍率ズームレンズではよく見られるフォーカス構造です。
第4ユニットは、手振れ補正(Vibration Reduction)を行うレンズユニットで、レンズ系の振動を打ち消すように駆動させ手振れを抑制します。
広角から中望遠の焦点距離域を確保しながらF4とそこそこ明るく、手振れ補正も搭載したまさに全部入りなレンズです。
縦収差
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm
球面収差 軸上色収差
球面収差から見てみましょう、広角端側の基準光線のd線(黄色)はかなり綺麗な直線状に補正されている一方、望遠端側を見ると少々大きくマイナス側へぐにゃりと曲がりを持っています。
広角から中望遠までを1本に詰め込む辛さが滲んでいます。
軸上色収差は、望遠端で少々大き目ですが及第点と言ったレベルでしょうか。
像面湾曲
像面湾曲は、広角端では画面周辺の像高18mmあたりまでは程よく補正されているようですが、画面の隅に向かってタンジェンシャル方向の特性が強くプラス方向へズレていきます。
望遠端は全体的にタンジェンシャル方向の特性がマイナス側に倒れ、サジタルと大きく乖離しています。一般的にはこのようなズレをアスと言い、極端に大きくなるとペッツバールボケとかグルグルボケと言われる背景が渦を巻くようなボケになりますが、このレンズはF4でそれほど大きくはボケないので極端には目立たない程度でしょう。
歪曲収差
歪曲収差は、広角端は画面の隅でマイナス5%(樽型)ほど、望遠端は画面の隅でプラス3.5%(糸巻き型)で、値自体も大きいですが、ズームによる変動も大きいですが、安価なズームでは一般的な量です。
倍率色収差
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm
倍率色収差は広角端と望遠端で向きはことなりますが、g線(青)とC線(赤)が重なりながら倒れています。
この種のズームレンズでは色収差自体を抑えるのは難しいので上手く重ねて強い色味を出さない工夫が施されていますが、教科書に載せたくなるような典型的なパターンですね。
横収差
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm
横収差として見てみましょう。
左列タンジェンシャル方向は、広角端も望遠端も画面周辺の像高18mmを越えるとコマ収差(非対称成分)と倍率色収差の影響が強く、解像度の低下が心配です。
右列サジタル方向は、広角端の画面の周辺の像高18mmあたりから傾き(ピントズレ)が大きくなるようです。望遠端は像高が上がるに従いサジタルコマフレアが大きくなりますが十分に健闘しているようです。
球面収差の暴れ具合を見ると少々心配になりますが、横収差としては全体に巧みな補正が施されており、広角から中望遠までの撮影範囲をカバーするいかにも苦しそうな仕様でありながらさすがは日本が誇る光学メーカーの伝統の技を感じますね。
新発売
スポットダイアグラム
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
F4とFnoが控えめなこともあり、全体に小さくまとまっているようです。
広角端では横収差で見えていたサジタル方向の傾きの影響で画面の周辺の像高18mmを越えるとV字状のいびつなスポット形状になっています。望遠端では意外にも画面中心での色の滲みが少々顕著なようですね。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
特に広角端では倍率色収差の影響でスポットが色ごとに分離している様子がよくわかります。
MTF
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離120mm
開放絞りF4.0
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると広角端も望遠端も十分高く開放から使える高さとなっています。
広角端では画面周辺の像高18mmを越えると山が低下しつつ位置のズレも甚大になってくるようです。
望遠端はさほど山の位置ズレはありませんが、同様に高さの低下が大き目なようです。
小絞りF8.0
FnoをF8まで絞り込んだ小絞りのMTFです。
2段分としてF8まで絞ると中心は限界まで山が高まり解像度を向上します。周辺は上がりきるわけではありませんが、実用上は十分な程度には改善するようです。
総評
AF-S NIKKOR 24-120mm F4.0は、そこそこにFnoが明るくズーム倍率も高いうえに手振れ補正まで搭載した「万能ズーム」と言える存在で、フルサイズデジタル一眼レフカメラの発展期を支えた銘レンズのひとつと言えるでしょう。
しかしながら、やはり一眼レフカメラはファインダーへ光を導くためのミラーを配置するがため、特に広角域で光学設計負荷が高く、単焦点レンズには一歩及ばずと言った性能に留まらざる得ない宿命にあるようです。
関連記事:一眼カメラのしくみ ミラーレス一眼カメラのしくみ
さて、次回はお待ちかねのNIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0Sを予定しおります。お楽しみに。
関連記事:NIKON NIKKOR Z 24-120mm F4.0S
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
Fマウントレンズもマウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラでも使用できます。
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作例・サンプルギャラリー
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製品仕様表
製品仕様一覧表 NIKON AF-S NIKKOR 24-120mm F4.0 G
画角 | 84-20.2度 |
レンズ構成 | 13群17枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | 0.45m |
フィルタ径 | 77mm |
全長 | 103.5mm |
最大径 | 84mm |
重量 | 710g |
発売日 | 2022年 1月28日 |