この記事では、シグマのArtシリーズより一眼レフカメラ用の50mm F1.4 DG HSMと、ミラーレス一眼カメラ専用50mm F1.4 DG DNの比較分析を行います。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
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レンズの概要
SIGMAのレンズの中でも最上位シリーズであるArtラインは、2012年に一眼レフカメラ用として始まり、フルサイズカメラのミラーレス化に伴いリニューアルが始まりました。
当記事で比較分析を行うSIGMA 50mm F1.4 は、2014年に発売された一眼レフ用の初代「DG HSM」からおよそ10年を経て、2023年にミラーレスカメラ用の二代目「DG DN」へリニューアルされました。
初代の発売された2014年当時、まだ一眼レフ用の標準レンズは伝統的なダブルガウス型が主流の時代でした。
Artラインとして登場したSIGMA 50mm F1.4 DG HSMは高い解像度と重厚なサイズ感のレンズで、その後の各社の情勢も一変してしまうほどの衝撃を与え、まさに時代を変えた1本と言えるでしょう。
この初代50mmにより、Artラインは高品位を極めるその方向性がしっかりと確立されたように見受けられます。
今回の記事では、SIGMA 50mm Artがいかなる進化を遂げたのか、設計値を比較分析することでその真髄まで確認してみたいと思います。
それぞれのレンズは過去に分析しておりますので、各記事をご参照ください。
- 一眼レフカメラ用:SIGMA 50mm F1.4 DG HSM
- ミラーレス一眼用:SIGMA 50mm F1.4 DG DN
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図の左が一眼レフカメラ用SIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)の初代Artで、右がミラーレス一眼用にリニューアルされたSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)の二代目Artの光路図になります。
レンズの構成を見ると、一眼レフカメラ用の初代DG HSMは8群13枚、ミラーレス用の二代目DG DNは11群14枚、レンズの枚数的にはミラーレス用になり1枚増加したようです。
特に見た目で大きく異なるのは二代目レンズはミラーレス用であるため撮像素子周辺の空いた空間にレンズを配置し、いわゆるショートバックフォーカスの光学系となっています。
関連記事:焦点距離、ミラーレス一眼カメラのしくみ
さらに当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。
緑色で示すのは色収差の補正に効果的なSLD(Special Low Dispersion)ですが、初代DG HSMレンズは3枚も採用されているのに対して、二代目DG DNレンズは1枚となっています。
一方で、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な赤色で示す非球面レンズは、初代DG HSMレンズの1枚から、二代目DG DNレンズでは3枚まで増加しています。
また、顕著に異なるのはピントを合わせるフォーカシングレンズの構成です。
初代DG HSMレンズは、撮像素子側の巨大な後群レンズを強力なパワーが特徴の超音波モーターHSM(Hyper Sonic Motor)で超高速に移動させピントを合わせます。
ただし、HSMは強力過ぎて騒音が大きく、動画撮影で求められる静粛でスムースな動作には向かないため、二代目DG DNレンズではリニアモーターHLA(High-response Linear Actuator)を採用し、超静粛化とスムースな動作を実現しています。
縦収差
左図がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)で、右図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)
球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見ると双方とに遜色無いレベルでほとんどゼロのレベルです。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も双方同程度ですが、ミラーレス一眼カメラ用の二代目DG DNは色収差の補正に効果的なSLDレンズを2枚減らしていますが十分に補正されています。
ミラーレス一眼カメラは、バックフォーカスを長くとる必要の無いため設計自由度が高く、一般ガラス材でも無理なく色収差が可能となっているのでしょう。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、基準光線であるd線(黄色)を見ると二代目DG DNの方が、より一層美しくまとめてあるようです。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、初代DG HSMはほぼゼロですが、二代目DG DNの方は大きくプラス側へ倒れており、実写すると糸巻き型に歪みます。
近年では定番の画像処理に補正を活用しているものと推測されます。
倍率色収差
左図がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)で、右図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、一眼レフ用の初代DG HSMは画面全域で平均的に小さくする昔ながらの補正タイプ、ミラーレス一眼カメラ用のDG DNの方は赤系の成分と青系の成分をそれぞれに小さめにまとめ画像処理で重ね合わせ最小化させる方式と推定されます。
横収差
左図がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)で、右図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。
左列タンジェンシャル方向は、二代目DG DNの方はコマ収差(非対称性)がわずかですがより洗練されているようです。
右列サジタル方向は、二代目DG DNの方はサジタルコマフレア(傾き)が信じ難いレベルで激減しています。
二代目は、非球面レンズを2枚も増やしている効果がここで発揮されているのでしょう。
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スポットダイアグラム
左図がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)で、右図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
双方ともに、画面中心から中間の像高12mm程度までは同レベルで小さくまとめています。
画面周辺の像高18mmを越えると、二代目DG DNの方はサジタルコマフレアが激減しているため、横方向の広がりが激減しています。
星の撮影など高解像度の求められる被写体では、十分に二代目を選択する意義があるでしょう。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
サジタルコマフレアの影響がより顕著によくわかりますね。
MTF
左図がSIGMA 50mm F1.4 DG HSM(青字)で、右図がSIGMA 50mm F1.4 DG DN(赤字)
開放絞りF1.4
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、双方ともに差はありませが、少し周辺部へ至ると初代DG HSMは乱れが目立ちます。
一方の二代目DG DNの方は一切の乱れや迷いの感じられない特性で、澄み切った真冬の青空のようです。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
二代目DG DNの方が、絞り込んでも1段上の画質のようです。
総評
一眼レフカメラ用の初代50mm F1.4 DG HSMは、Artラインの中でも初期モデルだけあって、わずかですが甘さが残っていたのも事実です。
一方のミラーレス用の二代目DG DNは、より小型化&軽量化しながらも極めて高いレベルまで解像度を改善しているようですね。
星の撮影など絞り開放から高解像を求める方には最高の一本ではないでしょうか。
さらに二代目DG DNは、動画撮影にも適したリニアモーターHLA(High-response Linear Actuator)を採用するなど、まさに「隙の無い」造りとなり、ミラーレス時代のArtラインにふさわしいレンズとなっているようです。
万遍なく着実な進化を見せた二代目DG DNを買わない理由なんてありますか?
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
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製品仕様表
製品仕様一覧表 SIGMA 50mm F1.4 DG HSM vs SIGMA 50mm F1.4 DG DN
SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | SIGMA 50mm F1.4 DG DN | |
画角 | 46.8度 | 46.8度 |
レンズ構成 | 8群13枚 | 11群14枚 |
最小絞り | F16 | F16 |
最短撮影距離 | 0.40m | 0.45m |
フィルタ径 | 77mm | 72mm |
全長 | 123.9mm | 111.5mm(Sony E) |
最大径 | 85.4mm | 78.2mm |
重量 | 890g | 660g(Sony E) |
発売日 | 2014年 4月25日 | 2023年2月23日 |