シグマ 24mm F1.8 EX DG ASPHERICAL MACROと28mm F1.8 EX DG ASPHERICAL MACROの性能比較分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
新刊
レンズの概要
SIGMA EXレンズとは、1998年から始まったプロ・ハイアマ向けの上位クラスのレンズシリーズです。
執筆現在(2021)におけるSIGMAでの上位レンズシリーズのArtラインは2012年から販売されていますが、その前身と言えばわかりやすいでしょうか。
今回はEXシリーズの中で、F1.8の大口径でありながらお手頃価格で好評を博した24mm F1.8 EX DGと28mm F1.8 EX DGの2本を分析します。
このレンズは本当に人気が高かったようで、2001年の発売開始でしたが2019年頃までは新品が入手できた記憶しています。長きに渡り愛されたということでしょうか。
特に焦点距離28mmの単焦点レンズは後継機もなかなか発売されず、2019年になってようやくSIGMA Artラインから28mm F1.4が発売されました。
過去には当ブログでも後継機である28mm F1.4 Artを分析しております。
関連記事:SIGMA 28mm F1.4 Art
さて、ほぼ同時期に発売された24mm F1.8 EXと28mm F1.8 EXですが、この2つのレンズには不思議な特徴があります。
その特徴とは、驚くべきことにレンズ構成の見た目が双子のごとくほとんど同じなのです。
焦点距離24mmと28mmのレンズ違いと聞けば「大差が無いのかも?」と誤解されるかもしれませんが、普通のレンズはそれぞれに大きく中身が異なります。構成枚数が同じであることですら珍しいことかもしれません。
その謎のふたごレンズの秘密をひっそりと分析してみようと、今回の記事ではいきなり2本まとめて比較分析することにしました。
私的回顧録
まずは、焦点距離24mmと28mmの違いについてシミュレーションによるグラフを使い説明いたしましょう。
焦点距離の数値的な差はわずか4mmに過ぎませんが、そもそも焦点距離とはレンズの主点から撮像面までの距離であるため一般の撮影者にはあまり価値の無い数値です。
以下の図では、たった1枚のレンズで焦点距離24mmと28mmの光路を比較してみました。
たった1枚のレンズで構成されている場合の主点位置は、ほぼレンズの中央部でその主点から結像点までの距離が焦点距離となります。
左は焦点距離24mm、焦点距離28mmの図
上図のごとく、この焦点距離を知っても撮影者には特にメリットがありません。
本来、撮影者の知りたい情報は、画幅(撮影範囲)のはずです。
では、焦点距離24mmと28mmのレンズで撮影距離3mの場所における水平方向の画幅を図示します。
下図の左は焦点距離24mm、右は焦点距離28mmの水平画幅です。
撮影距離が3mとそこそこに長いため全体図を記載するとレンズが非常に小さな「点」になってしまいますね。
この図のように「どのような範囲が写るのか」が撮影者には重要な情報であるはずです。
撮影される範囲がわかればレンズ選択の際に便利なはずですね。
しかし、画幅で表現しますと撮影距離によってその数値が変わるため扱いが面倒であるデメリットがあります。
よって、画角(撮影角度)で表現するのが本来は適しているはずです。
下図の左は焦点距離24mm、右は焦点距離28mmの画角です。
画角で表現すると74度と65度の違いとなります。
焦点距離の差はたった4mmですが、実際の撮影画幅や角度では雰囲気が変わることがおわかりでしょうか。
そして、このように違いがあるため、当然ながらレンズの見た目も本来は大きく変わってくるわけです。
本来は…
文献調査
実は私もSIGMA 24mm F1.8 EX DGを一時期所有しておりまして、いつか分析テーマにしようかと過去の特許文献を調査しておりました。
そんな折に特開2001-330771を発見し、文献の実施例を見ると焦点距離24mmと28mmの実施例が記載されておりました。
一般に特許文献には、多様な実施例が記載されている場合も多く、はじめは特別に不思議には思わなかったのです。
しかし、この24mmレンズには焦点距離28mmの似たような製品があったことを思い出し、改めて調査してみるとふたつのレンズは一見すると違いがわからないレベルで構成が似ていることが判明しました。
そして私は、ふたつのレンズが1件の特許にまとめられていることに気が付きました。
ここから、 特許が1件にとめられている点や、製品の発売時期などから推測するに、ふたつのレンズは同一人物が同時期に設計したのではないかと見ています。
しかし、同一人物が同時期に設計しますと、その後の開発のなかで行われる色々な作業や行事を同時に進めて行かなければならないので普通はパンクしそうなものです。
当然、仕事を複数人で分担したり負荷分散を行うのでしょうが、やはり設計した人物でないとよくわからないことも多いので、単純な分散とはうまくいかないものです。
よって、このふたごを生み出すのには大変なご苦労をなされたと推察いたしますが、これに敬意を示すために実施例2と実施例3を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図が左は24mm F1.8 EX、右は28mm F1.8 EXの光路図になります。
それぞれ、9群10枚構成、第3と第6レンズの2枚は非球面レンズを採用しています。
突然、パッと見せられたらどちらか言い当てるのは困難そうなレベルで酷似しています。
ここで「なぜここまで似た形状にしたのか」と言う疑問があるでしょう。
おそらく、メカ機構などを徹底的に共通化することで製品全体の価格を安く抑える狙いだったのではないでしょうか?
一般的なレンズは、見てわかるレベルで構成が異なりますから、あらゆる部品がそれぞれの製品にカスタマイズされた専用部品を採用しているものです。
一方で、このレンズは正反対にレンズ以外のあらゆる部品を共通化することで、製品の価格を下げようと言う「SIGMAの心意気」を体現したレンズなのではないでしょうか?
※すべて憶測です。
縦収差
左は24mm F1.8 EX、右は28mm F1.8 EX
球面収差 軸上色収差
球面収差から見てみましょう、大口径のF1.8レンズですが広角レンズだけあってあまり大きくならないようで十分に補正されているようです。
ちなみにグラフの上端がちょんぎれているのですが、Optalixのバグなのか原因不明ですが、特許文献の特性と同じなのでグラフ描画上の問題で上端が広く空いているだけで特性自体は問題なさそうです。
軸上色収差は若干大き目な雰囲気ですが、グラフの上端では良く重なり、開放側のFnoでは気にならないでしょう。
像面湾曲
像面湾曲はグラフの上端である画面隅の像高21mmあたりではかなりタンジェンシャル方向(破線)がずれています。
このレンズは2001年発売ですから実質フィルム撮影用なのでこのレベルで妥当でしょう。
一般的にフィルムは印刷する際にプリント用紙の関係で画面隅がカットされますから、一般レベルの撮影者は見る機会がありません。
歪曲収差
歪曲収差はマイナス側にふくらむいわゆる樽形状のズレを残しますが、時代や価格を鑑みれば適度なレベルです。
倍率色収差
左は24mm F1.8 EX、右は28mm F1.8 EX
倍率色収差は広角レンズほど厳しくなりやすい収差ですが、その通り24mmの方が全体に大きめです。
そのため一般的には広角レンズの方がよりレンズ枚数が増えるのですが、このレンズは同一枚数としているので結果として24mmの方の性能が苦しくなります。
横収差
左は24mm F1.8 EX、右は28mm F1.8 EX
横収差として見てみましょう。
サジタル方向の収差はは2本とも似たレベルで、かなり大味感のあるはっちゃけた性能です。
タンジェンシャル方向はあまり遜色ないレベルでまとめられていますが、焦点距離24mmの方が苦しいのがわかりますね。
新発売
スポットダイアグラム
左は24mm F1.8 EX、右は28mm F1.8 EX
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
画面の中間の像高15mmほどまでは拮抗していますが、これよりも画面外側では焦点距離24mmのスポットサイズが二回りは大きいでしょうか…
スポットスケール±0.1(詳細)
MTF
開放絞りF1.8
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
画面の中間の像高15mmあたりまでは焦点距離24mmの方が少々高いぐらいでしょうか、しかし山の位置の一致度などトータルで見るとあきらかに焦点距離28mmの方が整っています。
隅部の解像度にこだわらなければ中央は現代でも十分に使える性能ですし、ほんのりレトロな描写が懐かしいかもしれませんね。
小絞りF4.0
総評
SIGMAのふしぎな双子レンズ、よく見ればそれは「SIGMAの心意気」が垣間見える哲学的レンズと言えるでしょう。
また、これを2本同時に仕上げるSIGMAの技術力にも恐れ入ります。
さて問題はどちらのレンズを選択するか?ではないでしょうか。
私的におすすめさせていただくと標準的な性能をご所望なら焦点距離28mmを、ほんのり遊び心のある描写を楽しみたい方は24mmを選択されてはいかがでしょう。
なお、それぞれのレンズの後継機と言えるArtラインの焦点距離24mmと28mmのレンズを過去に分析しておりますので、改めてご覧いただけるとその進化もお楽しみいただけるのではないでしょうか?
関連記事:SIGMA 24mm F1.4 Art DG HSM
関連記事:SIGMA 28mm F1.4 Art DG HSM
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
作例・サンプルギャラリー
SIGMA 24mm F1.8 EX , 28mm F1.8 EXの作例集は準備中です。
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製品仕様表
製品仕様一覧表 SIGMA 24mm F1.8 EX , 28mm F1.8 EX
24mm F1.8 | 28mm F1.8 | |
画角 | 84.1度 | 75.4 |
レンズ構成 | 9群10枚 | 9群10枚 |
最小絞り | F22 | F22 |
最短撮影距離 | 0.18m | 0.20m |
フィルタ径 | 77mm | 77mm |
全長 | 83.6mm | 83.6mm |
最大径 | 82.5mm | 82.5mm |
重量 | 485g | 500g |
発売日 | 2001年 | 2001年 |