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【深層解説】ニコンvsソニー超大口径標準レンズの比較 NIKON Z vs SONY GM 50mm F1.2-分析102

当ブログで過去に詳細分析を行った2本の同仕様レンズの性能を比較分析します。

今回、比較を行うのはこちらの2本です。

2本供に近い時期に発売された宿命のフラッグシップレンズとも言える超大口径標準レンズを比較検証します。

レンズの概要

NIKON NIKKOR Z 50mm F1.2は、2020年に発売されたNIKONのミラーレス一眼Zマウント用の超大口径標準レンズです。

1978年に発売されたFマウント用の一眼レフ用マニュアルフォーカスレンズのAi NIKKOR 50mm F1.2以来となる超大口径レンズです。(流用製品を除く)

Fマウント時代にはオートフォーカス化されることなく、Zマウントとなり約40年越しにリニューアルされた製品です。

一方のSONY 50mm F1.2は、2021年に発売されたSONYのミラーレス一眼Eマウント用の超大口径標準レンズです。

SONYの交換レンズ事業は、MINOLTAのカメラ事業を買収することに始まりますので、MINOLTAのF1.2レンズを振り返ると、先代となるのは1978年発売のMDロッコール50mm F1.2のようです。

MINOLTAのオートフォーカス対応Aマウントでは、F1.2仕様のレンズは発売されなかったため、SONY Eマウント時代となり、こちらもまた約40年ぶりのリニューアルとなりました。

改めて発売までの経緯を見ると、ほとんど同じ歴史をたどり、そして同じ時期に再発売となった2本レンズですが、40年間という時間の流れの中で導き出された答えはどうなったのか比較分析してみたいと思います。

私的回顧録

『小径マウント』

SONYのミラーレスカメラ用のEマウントは、フルサイズの撮像素子にも対応していますが、現代的な視点では小径サイズであった故に大口径レンズには不向きとの噂がありました。

そもそもEマウントは、APS-Cサイズ撮像素子用のマウントとして登場したためです。

まず、フルサイズとAPS-Cの撮像素子は、下図ほどのサイズ差があります。

当記事に登場するいくつかのマウントを「径サイズ」で比較してみましょう。

  • NIKON Fマウント:44mm(一眼レフ)
  • NIKON Zマウント:55mm(ミラーレス)
  • SONY Aマウント:50mm (一眼レフ)
  • SONY Eマウント:46mm(ミラーレス)

1959年から始まったNIKONの一眼レフ用のFマウントは、内径が44mmと当時の業界では標準的でしたが、時が経つにつれて後発のオートフォーカスシステムを前提としたマウントに比べると一回り小さい状況となっていきました。

その後、ミラーレスカメラ用のZマウントへ新生される際に大口径化を果たし、内径55mmとなりました。

一方のSONY Aマウントは、MINOLTAが1985年発売を開始した世界初のオートフォーカス一眼レフ用マウントをSONYが継承したものです。

Aマウントは、最初からオートフォーカスを前提としているため余裕のある内径50mmで始まりました。

その後に登場したSONYのミラーレス用のEマウントは、当初APS-Cサイズ撮像素子を前提としたため内径46mmとAマウントよりも小さく設定されています。

APS-Cサイズの専用と思われたEマウントは、フルサイズへの対応も開始し「APS-CサイズのEレンズ」と「フルサイズのFEレンズ」の両対応マウントとして拡張されたました。

Eマウントは小さい側から拡張してきた経緯もあり、サイズが小径なために大口径レンズには向かないなどと揶揄されたものでしたが、巧みな光学技術で多数の大口径GMレンズを開発し、ついには50mm F1.2を発売することで、そのレッテルを払拭したのです。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図の左側(青字)がNIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)がSONY FE 50mm F1.2の光路図になります。

NIKONは15群17枚構成、SONYは10群14枚構成です。

約40年前の先代レンズは、いわゆるダブルガウスタイプでしたが、双方ともあまりの発展ぶりに理解が追いつきませんね。

なお、ガウスタイプの典型例としてNIKONの先代レンズを過去に分析しておりますので、比較されるとわかりやすいでしょう。

 関連記事:NIKKOR Ai 50mm F1.2

また、双方の違いは構成枚数だけでなく、フォーカシング(ピント合わせ)方式も異なっています。

上図の左側(青字)がNIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)がSONY FE 50mm F1.2のフォーカシング方式の概略図です。

双方ともにフォーカシング時に複数のレンズユニットを移動させるフローティングフォーカス機構を採用しています。

NIKONは、撮像素子側の隣接する2つの群を移動させており、ZマウントレンズではズームレンズのフラッグモデルNIKKOR Z 24-70mm F2.8でも採用されていますね。

SONYは、被写体側の少し離れた2つの群を移動させる方式で、近年のマクロレンズの方式に近いようです。

縦収差

左側(青字)NIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)SONY FE 50mm F1.2

各図左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、双方供に異常な高性能で大きな差はありませんが、わずかにSONYの方が小さいでしょうか。

軸上色収差は、SONYの方が小さいようですが、NIKONもグラフ上端で重なり合うようにまとめており、実写上の違いはわからないのではないでしょうか。

像面湾曲

像面湾曲は、わずかにNIKONのまとまりが良く見えます。

歪曲収差

歪曲収差は、微量な差ですがNIKONの方が良さそうですね。

倍率色収差

左側(青字)NIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)SONY FE 50mm F1.2

倍率色収差は、NIKONは中間部でふくらみがあり、上端で重なる伝統的な補正方式です。

SONYは上端で広がるような画像処理補正が一般的となって以来、よく見るパターンにも見えます。

倍率色収差の絶対値的にはSONYの方が小さいようです。

横収差

左側(青字)NIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)SONY FE 50mm F1.2

各図左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、NIKONの方が画面全域でコマ収差(非対称性)が小さく、きれいにまとまっているようです。

右列サジタル方向は、SONYの方が曲がりが少なく、いわゆるサジタルコマフレアが小さいようです。

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スポットダイアグラム

左側(青字)NIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)SONY FE 50mm F1.2

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

標準スケールでは双方供に小さくまとまっており、F1.2の超大口径とは思えないレベルですね。

ここいらで箸休めに伝統的な50mmの性能がどうだったのかご覧いただくとわかりやすいかもしれません。

 関連記事:NIKKOR Ai AF 50mm F1.8D

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

詳細図で見ると、SONYの方がスポット自体は小さいようですが画面の周辺部の像高18mmあたりから少々イビツがさあるようで、NIKONの芯に丸みを残す形状はボケの滑らかさを意識しているように見えますね。

MTF

左側(青字)NIKKOR Z 50mm F1.2、右図(赤字)SONY FE 50mm F1.2

開放絞りF1.2

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、SONYの方が一段高いようです。

軸上色収差の少なさが影響しているのでしょう。

一方のNIKONは、画面中心から周辺までの山が均一に高く、位置も一致しています。

局所的な解像度はSONYが高く、画面全域の均一性としてはNIKONの方が良い、と見るのが適切でしょうか。

MTFの山の位置がずれていると言うことは、平面を撮ったとしても画面内の位置によって手前にピントがあったり奥にピントがあったりするわけです。

背景のボケがうるさくなる要因にはなります。

山が一致し均質であると言うことは、裏を返せばボケも均質でなだらかであるとも理解できます。

NIKONは、解像度とボケの両立を図ったのでしょう。

しかし、SONYの解像度の高さは、F1.2の超大口径レンズでは人類未踏の境地に到達しています。ぜひ一度試してみたいと思わせるものですね。

小絞りF2.8

FnoをF2.8まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

F2.8になると、双方ともに山が理想値レベルに達します。

高すぎる次元の中での差ですが、開放とは逆転しNIKONの方が全体に山が高くなるため、画面の隅まで高い解像度が得られるでしょう。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

F2.8の時点ですでに解像度があがりきっているため良い意味で変動は少なくなります。

総評

1978年の同時期に発売された先代レンズから約40年の時を経て、ミラーレスカメラの世界で再び邂逅を果たした運命の2本のレンズ。

NIKONは解像度とボケの究極のバランスを目指し、またSONYは人類未踏の解像度を目指した、双方が至高と考えた世界をついに体現した素晴らしいレンズでしたね。

ここで、僭越ながらワタクシが購入をおススメするレンズですが…「2本とも購入すれば、幸福度も2倍」と、ご意見を申し上げます。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

作例・サンプルギャラリー

NIKKOR Z 50mm F1.2、SONY FE 50mm F1.2の作例集は各ページをご覧ください。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKKOR Z 50mm F1.2、SONY FE 50mm F1.2

NIKKOR Z 50mm F1.2SSONY FE 50mm F1.2 GM
画角47度47度
レンズ構成15群17枚10群14枚
最小絞りF16F16
最短撮影距離0.45m0.4m
フィルタ径82mm72mm
全長150mm108mm
最大径89.5mm87mm
重量1090g778g
発売日2020年12月11日2021年4月23日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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