ニコン ニッコール 14-24 F2.8 広角端の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
新刊
レンズの概要
誰が最初に言ったのか?プロ御用達のFno2.8の望遠・標準・広角ズームレンズは3本まとめて大三元レンズと称するのが一般的となりました。
大三元レンズとひとまとめにされていますが、現在(2020)での大三元の仕様は望遠70-200F2.8、標準24-70F2.8までは各社共通した感がありますが、広角ズームは各社異なります。
広角ズームでは焦点距離レンジを16-35mmとするメーカーが多いなか、NIKONでは14-24mmの超広角仕様としています。
今の時代にそぐわない表現ですが「男前な仕様」です。
広角ズームなので「標準ズームとかぶる35mm側の仕様はいらん!35mm領域を作るぐらいなら他社より広角にしたる!」と言うことなんでしょう。実にNIKONらしい。
NIKONのF2.8広角ズームの系譜を見てみますと、執筆時現在(2020/10)に発売される予定のZマウント用レンズを含め合計3本のF2.8広角ズームが発売されています。
- Ai AF NIKKOR 20-35mm F2.8D(1993)
- AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED(2007)
- NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S(2020)
最初のF2.8ズームAi AFから始まり焦点距離を20-35mmでしたが、14年ほどの時を要してAF-Sでは14-24mm仕様へと大きく進化しました。
そこからさらに13年後のZマウントではより広角仕様へシフトして行くのかと思われましたが、仕様は同じとして高性能・小型化と言うミラーレスらしい方向へ進化させたようです。
前回の分析記事では最新のZマウント用14-24 F2.8を分析しましたが、今回はその比較も兼ねて同仕様のFマウント用レンズAF-S 14-24 F2.8Gを分析します。
私的回顧録
個人的には超広角ズームは少々ニガテ分野で、主な使い道もよくわかっていません。天体撮影や建築物などの撮影をされる方が好まれるのでしょうかね?
写真は玄人ほど広角を好むと言う説を聞いた事がありますが、私は一生素人なのでしょう…
さて、前回の分析記事NIKKOR Z 14-24mmでも記載の通り、このレンズを分析するのは理由があります。
広角に有利とされるミラーレスレンズの真価を検証したいと言う目的で、前回ミラーレスのZマウントレンズの14-24mmを分析しましたので、その比較相手としてこのFマウント広角ズームを分析します。
さらに、広角レンズほど技術革新が目覚ましいジャンルですから前製品から13年の期間にどれだけの技術革新があったのかも調査しようとの考えです。
なお、今回はこのレンズ自体の性能評価を行い、後日になりますが新/旧14-24レンズの比較検証記事を制作する予定です。
文献調査
流石に分析したレンズ本数も30本に近づきますので、こなれたもので特許の方は簡単に見つかりました。特開2007-94174の形状が近い実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がNIKON NIKKOR 14-24 F2.8 広角端の光路図になります。
11群14枚、球面収差や像面湾曲を補正するための非球面レンズは3枚搭載し、色収差を補正するEDレンズは2枚搭載されたさすが豪華な大三元です。
ひと際目を引くのが前玉でしょう。
第1レンズは超広角レンズらしく巨大で立派に張り出した出目金で、いつまでもジッと眺めたくなるような美しい見た目です。
こんなレンズを購入したら手にして見るだけで所有欲を満たすこと間違いありませんね。
部屋に飾るために購入するのもこの際「アリ」ではないでしょうか?
注:誤った購入の仕方です。
縦収差
球面収差 軸上色収差
広角レンズというのは光路図で見るとわかるように「中心を通る光線束が細い」ので球面収差や軸上色収差はもともと大きくはなりません。
しかしながら、14-24mmの超広角仕様が苦しいのか若干マイナス側に収差を残しています。
これは像面湾曲の補正が不足しマイナス側に残るため、わざと球面収差を残して全体バランスを取ったものと推測されます。
像面湾曲
像面湾曲は超広角ズームだけあって全体にマイナス側に収差が残り、周辺部は若干苦しい様相です。
歪曲収差
歪曲収差は単焦点レンズならばおおむね最大3.5%程度までに抑えるのが一般的でしょうか、安いズームレンズでは最大5%程度の物が多いので、このレンズは超広角ズームで最大で5%程度ですから健闘しているものの並み程度といったところでしょうか。
倍率色収差
c線(赤)の倍率色収差の補正残りにg線(青)を重ねて見た目を緩和させていることが伺われますが、超広角&大口径の仕様を鑑みればかなり健闘していると言えます。
横収差
左タンジェンシャル、右サジタル
横収差として見てみましょう。
大口径でありながらすっきりとした印象です。細かく見てみると中心の球面収差を少し残しているので少々の暴れがありますが、サジタルは全体にきれいに抑制されていますし、一昔前の単焦点よりも十分に収差は抑えられています。
新発売
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
若干c線(赤)が強そうではありますが、サジタルコマが少ないので丸みを残したスポット形状で理想的な雰囲気です。
スポットスケール±0.1(詳細)
こちらはスケールを変更し拡大したスポットダイアグラムの様子です。
MTF
開放絞りF2.8
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
中心から中間部12mmに至ってはかなりの高性能であることが伺える山の高さです。周辺18mmを超えると山の位置(ピント)ずれがありますが、山の高さは十分に残りますから周辺部まで十分な解像力は維持しています。
中心での球面収差の残し具合や横収差の微妙なうねりも全体の性能を鑑みて適切にバランス化させているのでしょう。
小絞りF4.0
F4に絞り込むと周辺部のピントずれまでも劇的に改善します。超広角ズームでありながらこれだけの解像力が発揮されれば、フィルムでの使用なら文句の付けようが無いでしょう。
ここまで計算し尽くして開放F2.8の性能も決めているのでしょう。
総評
超広角&大口径14-24mm F2.8仕様だけあって性能の厳しさが浮き出るかと思いましたが、高い非球面製造技術と巧な収差補正テクニックで安い標準ズームをはるかに凌駕する高い性能を実現していることがわかりました。
流石は大三元の一角と言ったところでしょうか。
望遠端(24mm)側は次回の記事へ続きます。
関連記事:NIKKOR 14-24mm f/2.8 G 望遠端
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
Fマウントレンズもマウントアダプターを利用することで最新のミラーレス一眼カメラで使用することができます。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例
NIKON NIKKOR 14-24 F2.8 広角端の作例集は制作中となります。
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製品仕様表
製品仕様一覧表NIKON NIKKOR 14-24 F2.8 広角端
画角 | 114度 |
レンズ構成 | 11群14枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | 0.28m |
フィルタ径 | --mm |
全長 | 131.5mm |
最大径 | 98mm |
重量 | 970g |
発売 | 2007年 |