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【深層解説】ニコン パンケーキレンズ NIKON NIKKOR Z 40mm F2.0 -分析105

ニコン のミラーレス一眼用のニッコール Zシリーズより40mm F2.0の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。

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レンズの概要

NIKON NIKKOR Z 40mm F2.0は、ミラーレス一眼 Zマウントシリーズ専用レンズで、FnoをF2.0の大口径としながら小型軽量で、お求めやすい価格を実現したレンズです。

焦点距離40mmのレンズは、各社パンケーキレンズと言われる薄型デザインとすることがひとつの定番スタイルとなっています。

しかし、NIKONにおける焦点距離40mmのレンズを調べると、実は過去のNIKONのフルサイズ用レンズでは40mmの仕様は存在しません。

それに代わり、NIKONでは似た仕様のレンズとしてGN Auto NIKKOR 45mmF2.8が存在しています。

この45mmは、ストロボと連動して絞りが自動で決めることができる少し特殊なレンズですが、外観は薄型のパンケーキデザインで独特な機能も併せ持つとても秀逸なレンズです。

焦点距離45mmのレンズの系譜は以下となります。

  • GN Auto NIKKOR 45mmF2.8(1969)3群4枚
  • GN Auto NIKKOR C 45mm F2.8 (1974)3群4枚
  • Ai Nikkor 45mm F2.8P(2001)3群4枚

GN 45mmはそれは美しいTessar型のレンズで大変興味深いのですが、こちらはNIKONの光学設計者がまとめた解説書にも記載がありますので参考にされてはいかがでしょうか。

 外部リンク:ニッコール千夜一夜物語II

一方、NIKON初のNIKKOR Z 40mmは、パンケーキスタイルとは言いづらいですが、Zマウントレンズの中では十分に小型で軽量な製品となっています。

デザインこそ現代的な外観ですが、マニュアルフォーカスレンズを思い起こすようなサイズ感と言えば良いでしょうか。

(ちょっと太めですが…)

 価格の調査は、こちらからどうぞ

私的回顧録

『40mm』

焦点距離40mmのレンズと言えば…

常に脳裏に浮かぶのはこの2本「SMC PENTAX M 40mmF2.8(1976)」と「OLYMPUS Zuiko 40mm(1983)」です。

 関連記事:SMC PENTAX M 40mm F2.8

発売時期は少々違いますが、不思議と似た運命の2本です。

両方とも薄型パンケーキデザインで、小型でありながら意外にレンズ構成枚数が多く質実剛健なレンズでしたが、発売当時はあまり人気が無く、気が付けば廃盤になっていました。

要は2本ともに、発売当時は人気の出なかった悲しいレンズでありました。

しかし、1990年代の後半からの「クラカメブーム※1」で人気となり、中古市場ではプレミア価格になったレンズです。

 ※1:クラシックカメラブームの略で、当時すっかり人気の落ちていたレンジファインダーカメラなども大いに見直された。

この不人気の理由は、私が思うに「大きさ」にあったのでしょう。

オートフォーカスや手振れ補正機能などの満載した現代的なレンズと比べれば、当時のレンズはマニュアルフォーカスですから小柄なレンズばかりでした。

そんな当時、いかに薄型パンケーキデザインを推しても「小型サイズ」だけではユーザーのココロには響かなった…そんなところではないでしょうか。

その後、いくつかの40mmレンズが発売されてはいるものの「盛り上がりには欠ける」と言わざるを得ない製品が多かったのではないかと思います。

いつしか、40mmと言う焦点距離には、一種独特のジンクスあるいは呪いのような影が付き纏う仕様となっていきました。

ところが2021年の末頃、2本の40mmがほとんど同時期に登場しています。

1本はコンデジですが「RICHO GR3x」こちらは撮像素子がAPS-Cサイズなので実焦点距離は26mmですが、フルサイズ換算すると40mmに相当します。

まさかコンデジ真冬の時代に焦点距離40mm仕様を出すなんて…RICHOのセンスには恐れ入るとしか言えませんね。

このレンズは過去に分析しておりますのでこちらをご覧ください。

 関連記事:RICHO GR3x

さて、もう1本の40mmが本記事で紹介する「NIKON NIKKOR Z 40mm F2.0」となります。

それでは隅々まで拝見いたしましょう。

文献調査

執筆現在の2022年は、NIKON Zマウントカメラが発売されて3年以上経過しており、Zマウント創成期のレンズに関する特許文献が数多く公開されるようになりました。

実は、多くの製品関連文献の情報を掴んでいますが、肝心な分析記事の作成がぜんぜん追いていません…

このZ 40mmもしばらく前から特許文献の存在に気が付いていたのですが、今回ようやく執筆に至る次第です。

では、特開2021-189351から仕様が同一の実施例4を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON NIKKOR Z 40mm F2.0光路図になります。

4群6枚構成、球面収差や像面湾曲の補正に好適な非球面レンズ(赤面)を2枚採用しています。

絞りを挟んで前後に凹レンズを配置するのは一見するとダブルガウス的な雰囲気もありますが、撮像素子側に大きな凹レンズを配置している特徴があります。

ひとつの見方としては、NIKONの同じZマウントレンズであるNIKKOR Z 50mm F1.8の後ろ半分のようにも見えます。

 関連記事:NIKON NKKOR Z 50mm F1.8S

もう少し適切な見方をすると、少し配置は異なりますがNIKKOR 35mm F2.0Dをひっくり返したような形になっています。

 関連記事:AiAF NIKKOR 35mm F2.0D

一眼レフカメラではファインダーへ光を導くためのミラーが必要であったために、レンズと撮像素子の間隔であるバックフォーカスを長く取らねばならない課題がありました。

この解決のためにNIKKOR 35mm F2.0Dは、被写体側に凹レンズを配置したレトロフォーカス(逆望遠型)を採用しています。

しかし、ミラーレスカメラでは長いバックフォーカスが不要となり、撮像素子付近に強い凹レンズを配置することが可能で、このように小型化を実現できるわけです。

簡素で美しい構成でありながら、機能美に溢れる、これは実にミラーレスらしい設計事例ですね。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、わずかにマイナスにふくらむフルコレクション型で、古き良き時代のレンズの面影を少し残すようですね。

軸上色収差は構成枚数とFnoを鑑みれば十分に補正されていると言えるレベルです。

所謂、近年多い巨砲レンズに比べれば収差は残るものの、古き良き時代のレンズと比較すれば隔絶的なレベルで補正されているようです。

像面湾曲

像面湾曲は画面の隅では変動が残るものの、画面周辺の像高16mm程度までは十分に補正されているようです。

歪曲収差

歪曲収差は、一般に対称型光学系と言われる形のレンズは、小枚数でありながら歪曲が少ない特性があります。

対称型とは、レンズの配置の見た目のことで、絞りを挟んで同じような形のレンズが対称に配置されている形式です。

しかし、このレンズは明らかに対称では無いのに、異常なほど歪曲収差が少ない特性です。

倍率色収差

倍率色収差は、画面全域でF線(水色)とC線(赤)が小さく、解像が非常に高まる補正方法です。

一方のg線(青)はグラフの上端側の画面の隅では補正不足となりますが、目に見えづらい光なのであまり解像度に影響はありませんし、現代のミラーレスカメラでは画像処理によって補正されてしまうので、目にする機会は無いかもしれません。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、画面の周辺の像高18mmまでは非常に良く補正されておりますが、18mmを超えるとコマ収差(非対称)が強くなり解像度が低下を始めるようです。

右列サジタル方向は、構成の少ないレンズらしく画面の中間の像高12mmほどから少しサジタルコマフレアが大き目で、開放Fnoでは少し味のある描写になりそうです。

解像度の必要な場面では1段の絞り込みが良さそうです。

このSSDを購入しました。最高に良いです。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

画面周辺でg線(青)の倍率色収差が残ることと、サジタルコマフレアの影響で、画面の周辺の像高18mmを超えるとスポットが羽を広げたような形になります。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

この安価なクラスのレンズには少々厳しめな評価でしょうか。

MTF

開放絞りF2.0

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると山の高さはしっかりと高く、画面周辺の像高18mmまで山の位置もぴったりと一致しています。

ほんとうの画面隅あたりを除けば十分な解像度が得られるでしょう。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

構成枚数から考えると、予想以上に解像度が劇的に改善するようで、絞りにより画質を選択する楽しみが得られそうです。

総評

古き良き時代のレンズかに見えるNIKON NIKKOR Z 40mm F2.0ですが、価格や小型さに見合わない秀逸なレンズであることがよくわかりました。

構成枚数が多い現代的な巨砲レンズの設計には、体力的な労力が必要です。

一方で、このZ 40mmのように、簡素な構成枚数で高い性能を引き出すには、設計者の審美眼、いわゆるセンスがなければ真理たる設計解を得ることはできません。

当初、40mmのレンズを販売する意図がよくわかりませんでしたが、ミラーレス一眼の良さを完全に引き出す光学系を得たことの証だったわけですね。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

NIKON NIKKOR Z 40mm F2.0の作例製作記事はこちらです。

 関連記事:NIKKOR Z 40mm F2.0 + NIKON Zf 作例製作記 ニコンミュージアム

USB高速充電

製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON NIKKOR Z 40mm F2.0

画角57度
レンズ構成4群6枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.29m
フィルタ径52mm
全長45.5mm
最大径70mm
重量170g
発売日2021年10月1日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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