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【深層解説】ライカ コンパクトカメラ LEICA Q3 43 APO-Summicron 43mm F2 ASPH.-分析145

この記事では、ライカのレンズ一体型カメラ(コンパクトカメラ) Q3 43に搭載された標準レンズ APO-Summicron 43mm F2 ASPH. の設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

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レンズの概要

LEICA Qシリーズは高級コンパクトカメラで、大型のフルサイズ撮像素子と伝統のLEICAレンズを搭載し、2015年より発売されています。

初代(Q)から、二代目(Q2)、三代目(Q3)まで搭載されいたレンズには、伝統的に大口径で広角仕様の「Summilux 28mm F1.7 ASPH.」が搭載されていました。

当記事で分析する「Q3 43」は、三代目Q3の派生モデルで「43」とは「焦点距離の43mm」を示しています。

Q3 43に搭載されたレンズは、標準焦点距離の「APO-Summicron 43mm F2 ASPH.」へと変更されています。

要は「Q3 標準レンズモデル」とも言い換えることができます。

焦点距離43mm

LEICAの標準レンズの焦点距離は、理由は残されていませんが最初に開発されたレンズが50mmであったことに由来しています。

 関連記事:LEICA Elmar 50mm F3.5

そしてLEICAに追随し模倣した各社が50mmレンズを世に広めた結果「レンズの標準が50mmとなった」そんな歴史的経緯があります。

ところが、今回のLEICAは少しずらした焦点距離43mmとして開発しました。

この選択の経緯として、公式HPには「43mmという焦点距離は人間の目の画角に非常に近く~」そんな当たり障りない説明と、唐突に「LEICA Milarなるレンズがあった」という一文だけがありました。

Milarについて詳しくは記載されておらず、私はLEICAの研究家ではありませんので、詳しくはわかりませんでしたが…

焦点距離選定の理由は公式HPではほとんどありませんでしたが、レンズ業界で「43mm」というのはとてつもなく気になる数値です。

標準の焦点距離は、前述の通りの経緯で50mmとなったのですが、その理由が残されなかったために、後世に考察された諸説の理由が存在しますが、その有力候補のひとつが「対角線由来説」です。

標準レンズの焦点距離は、撮像素子の対角線長さを基準とするのが良いという考え方があります。

この考え方は、撮像素子のサイズが変わっても標準レンズの焦点距離が分かりやすいのでとても良い考え方です。

そして、フルサイズセンサーの撮像素子の対角線長さが「43.3≒43mm」になります。(35mmフィルムも同じ)

この理想値である対角線43mmから何らかの理由で少しずれた50mmが標準として採用された、それが対角線由来説です。

LEICAのことですから、当然この数値を意識していることでしょう。

40mm時代?

対角線由来説に基づいて、焦点距離43mmを標準レンズとして開発した製品は過去にもわずかにあり、最も有名なのがPENTAX-FA 43mm F1.9です。

このレンズは公式HPで対角線由来であることを明確に公言しています。

昔から40mm台のレンズは「不遇の焦点距離」で製品が少なかったのですが、ところが近年(執筆時2024年)では不思議と見直されているのか?NIKON NIKKOR Z 40mm F2なども登場しています。

さらに、長く続くRICOHのコンパクトカメラの名機GRシリーズは、メインの製品GRIからGRIIIは「約28mm相当」ですが、派生製品GRIII xは「約40mm相当」となっています。(35ミリ判換算)

GRから見ると、まるでLEICA Qシリーズは、RICOH GRのフルサイズ版とも言える構成ですね。

人気のGRシリーズを意識したのか…、もしや「40mmの時代」が到来しているのでしょうか?

文献調査

当ブログでは、レンズ一体型カメラ(コンパクトカメラ)の分析記事があまり登場しません。

一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラ用の交換レンズでは、伝統的にレンズ構成を開示するのが慣例となっています。

各社ともに性能良さをレンズの構成枚数や特殊レンズの採用する姿により高性能さを誇示したいわけですね。

一方のレンズ一体型カメラは、コンパクトさに重きを置くこともあり、具体的なレンズ構成が公開されない事が多いという残念な慣例があります。

そのため、特許を調べても製品と関係性が深いのか、確証を得るのが難しいという問題があります。

LEICA Qはその豪勢な光学系を誇示したかったのか、レンズ構成が公開されていました。

公式HPよりTechnical-Dataというファイルをダウンロードすると掲載されています。

これにより、関係する特許文献が特開2024-038542であることがわかりました。

 (内容を拝見すると開発したのは仲良しのあのメーカーですね…)

この仲良しのメーカーについてあまり深く言及すると、当ブログのような弱小サイトは存続の危機を迎えてしまいます…

後は静かに、この特許文献より実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図が-LEICA Q3 43の光路図になります。

レンズは8群11枚構成、非球面レンズはなんと4枚も採用しています。

焦点距離43mmほどでFnoがF2の仕様は、現代では明るいというほどのではありませんが、恐ろしいレンズ枚数です。

構成図を見るだけであきらかですが、NIKON NIKKOR Z 50mm F1.8のような超高性能路線を少し有利な焦点距離とFnoで、設計し直している印象ですね。

さらにピントを合わせるフォーカス機構にも特殊な構成を導入しています。

フォーカス時には少し離れた2つのレンズユニットを独立制御しピントを合わせるフローティングフォーカスを採用しているようです。

これにより遠距離撮影から近距離撮影まで、性能の変動を極度に抑えることが可能になります。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、まさに「息を飲む」とはこのことか、そんな気持ちになるほどの整えられた特性です。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も、ほとんどゼロと言える領域ですね。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、若干のうねりがあるように見えますが、十二分な補正が施されているようです。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、意外なことに大きくマイナスに倒れる傾向で、画像処理による補正を前提としていることがわかります。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、ほとんど完璧に補正されています。こちらは逆に画像処理による補正には頼らないようですね。

画像処理による倍率色収差の補正は、色の滲みは減るものの、失われた解像度は回復できないため、これもひとつの正しい選択です。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向も右列サジタル方向も、ほとんど直線でコマ収差やサジタルコマフレアの影響は無いようです。

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スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

こちらの標準スケールは、安価なレンズやオールドレンズ用のサイズなので、当レンズのような高性能レンズでは、一見すると画面の中心特性だか周辺特性だかわからないレベルですね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

拡大すると、画面の周辺側(下段側)にて若干の形状のいびつさがわかりますが、スポットのサイズは画面の中心から周辺までほとんど同じサイズです。

MTF

開放絞りF2.0

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、天井に張り付かんばかりの高さで、画面の隅の像高20mmまでほとんど変わりません。

驚異的な解像度を示しています。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

MTFの山の幅が変化するのは、深度が増えたことを示しており、これはFnoに依存します。

山の高さや頂点の位置の関係性は、Fno開放の状態とさほど変わりません。

これは開放から性能が良すぎる証拠です。

総評

LEICA Q3 43の性能は、値段からすると相応とも考えられますが「贅の極み」としか表現できない超高性能レンズでした。

コンパクトカメラであっても、まことにLEICAのカメラらしい伝統と格式の逸品。

永遠の憧れ…

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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製品仕様表

製品仕様一覧表 LEICA Q3 43

画角--度
レンズ構成8群11枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.265m
フィルタ径49mm
全長--mm
最大径--mm
重量---g
発売日2024年9月27日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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