この記事では、ニコンのフルサイズミラーレス用の交換レンズである広角標準ズームレンズNIKKOR Z 24-50mm F4-6.3の設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
2018年から始まったNIKONのミラーレス一眼システム NIKKOR Zレンズは、2026年時点ですでに多くの標準ズームレンズがラインアップされています。
まずはNIKON NIKKOR Zレンズシリーズにおける標準ズームレンズの一覧を見てみましょう。
- NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S
- NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II
- NIKKOR Z 28-75mm f/2.8
- NIKKOR Z 24-105mm f/4-7.1
- NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
- NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ
標準ズームレンズについて明確な定義はありませんが、一般的に焦点距離仕様に標準焦点距離である50mmを有すること、望遠端の焦点距離が200mm未満であること、少なくともこのような条件が該当するかと思います。
ところが、本記事で紹介するNIKKOR Z 24-50mm F4-6.3は、なんとも分類し難いレンズです。
広角端側の焦点距離24mmは、近年の標準ズームでよくある仕様ですが、望遠端側の焦点距離50mmは標準焦点です。
広角ズームと言うには物足りなく、標準ズームと呼称するには疑問符が付きます。
実は、このような仕様のレンズは、一眼レフカメラ時代の創成期によく見られた仕様なのです。
例えば、1981年に発売されたNIKON Ai Zoom Nikkor 25-50mm F4S (1981年12月発売)は、とても近い焦点距離仕様となっています。
このレンズは「広角ズーム」として販売されたもので、当時まだ一眼レフカメラ用の広角レンズを開発するのが難しかった時代だったのです。
さて、それから約半世紀後に登場したNIKKOR Z 24-50mm F4-6.3を考察してみると、おそらく2つの背景から生み出されたものと推測されます。
ひとつめは、カメラがミラーレスシステムかつ大口径化されたZマウントに進化したことで、広角レンズの設計が容易となり、極小型なズームレンズを開発することが可能となった、こと。
ふたつめは、スマートフォンのカメラでは広角レンズが主流となった影響で、一般向けのレンズには広角域を含むことが必須とされる時代となった、こと。
そんな2つの理由から生み出されたレンズと推測されるため、標準ズームと言うにも、広角ズームと言うにも、少しもどかしいレンズであります。
そこで、本記事ではこのレンズを「広角標準ズーム」と称し、さらなる深い設計意図を探って参りましょう。
文献調査
日本の特許庁が運営する特許文献サイトJ-PLATPATで調査すると、小型化を目的としたズームレンズに関する案件として、特開2021-189377が2020年に出願されております。
この文献には、本記事のレンズと酷似する実施例が記載されておりますが、出願人をよく見るとニコンと供に、カメラ業界では少し懐かしい存在となりつつあるコニカミノルタの名前も併記されています。
あくまで推測ですが、このような特許出願形態の場合、ニコンがコニカミノルタと協同開発したと考えるのが妥当です。
さらに、このレンズの製造については、ニコンとコニカミノルタのどちらで行っているのか?そんな疑問も浮かびますが、少し考察してみましょう。
まずレンズを見ると、このレンズの製造国は中国であると、製品マウントの付近に明記されています。
ニコンのレンズ製造拠点は、主力工場がタイにあることで有名ですが、中国に交換レンズの製造拠点があるのか公開情報は無いようです。
過去にも中国製の表記のレンズはありますが、直接管轄する工場ではないのかもしれません。
そうすると、製造もコニカミノルタ主導で行っているのではないか?と予想されますね。
この状況を現代風に表現すると、このレンズはニコンとコニカミノルタの「コラボレーションレンズ」あるいは「ダブルネームレンズ」とも言えます。
これは、ある人にとってはムネアツな、またある人にとっては少し甘酸っぱい気持ちになりますね。
さて、実施例1は記載ミスなのか再現できないので、形態が良く似ており再現の上手くいった実施例2を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
レンズレビュー公認レンズクリーナー:公認の秘密はこちら
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図

上図がNIKON NIKKOR Z 24-50mm F4-6.3の光路図になります。
本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。
左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離50mmの状態です。
英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。
一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。
当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は10群11枚、第1/7/10レンズは球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズ(aspherical)であり、第4/5レンズへ色収差の補正に好適なEDガラスを採用しているようです。
このレンズはフルサイズ用としてはとても安価な製品ですが、まったく手抜きの無い、むしろ贅沢すぎるとも言える構成となっています。
この構成を見ると、いつしかのNIKONの光学設計者インタビューを思い出してしまいます。
それは、このようなお話でした。
「入門者用レンズほど手抜きをしてはならない、初めての方にとってそのレンズは最初のNIKKORであって、唯一のNIKKORなのだから」
そんなお話を語られる姿を見て、その高い精神性に打ち震えた記憶がありますが、いまだにその志は受け継がれているようですね。
続いてズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。
ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。
第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると中間域でわずかにへこむように動く方式です。
第1ユニット全体として凹(負)の焦点距離(拡散レンズ)の構成となっていますが、これを凹(負)群先行型と表現します。
この凹(負)群先行型は、ほとんどの広角ズームレンズで採用される構成です。
第2/3/4群は、ズーム時には被写体側へそれぞれ少し異なる軌跡で移動します。
第3ユニットは、ピントを合わせるためのフォーカシングユニットともなっており、ズームとは別にそれぞれが前後に稼働できる構造です。
下図では沈胴機構を説明します。

このレンズには「沈胴」という機能が搭載されています。
沈胴とは、レンズ先端部を収納する(折りたたむ)機能のことです。
このレンズではズーム操作リングを広角端(Wide)から沈胴位置へ回し込むと、1群が引き込まれ小型になり収納しやすくなるわけです。
上図の左図は広角端(Wide)で、右図は沈胴(Collapsed Position)を示しています。
軽くて安いだけではなく、搬送時の小型化にも配慮された素晴らしい製品ですね。
縦収差

球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見てみると、広角端では極めて小さいようですが、望遠端では少々プラス側にふくらみます。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、広角端、望遠端ともに若干くせのある量が残ります。
ですが、Fnoの控えめな暗いレンズの場合、光線角度が浅いため、収差量が大きくともスポットダイヤグラム的に考えると影響は低下するため、少々苦しそうに見える縦収差ですが、あまり影響はありません。
Fnoごとに縦収差の横軸スケールを変えることが望ましいのですが、慣習的に同一スケールで表示することが多く、悩ましいところです。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、広角端、望遠端ともに極小というほどではありませんが適度な雰囲気です。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、広角端はマイナスに大きく樽型に歪むはずですが、画像処理による補正を行っていると推測されます。
望遠端は逆にプラス側に大きめで、画像処理をしなければ糸巻き型に歪みます。
倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、広角端も望遠端も少々大きめで画像処理による補正を行っているのでしょう。
横収差

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。
左列タンジェンシャル方向は、広角端では若干コマ収差(非対称)が残りますが、価格相応以上でしょう。
右列サジタル方向は、望遠端側は画面周辺部の像高18mmを越えるとサジタルコマフレアが目立ちそうです。
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
Fnoが控えめなだけに、やはりスポットダイヤグラムで見ると縦収差図ほどの収差感はなく、綺麗に整っています。
スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
画面の周辺部の像高18mmを越えると粗があるものの、全体的にバランスがとれています。
MTF
開放絞りF4.0/F6.3

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると極めて高く、画面の周辺部の像高18mmあたりから山の位置がずれるものの、高さは十分に残しています。
このような場合、画面の周辺部で少しピントがずれたように感じるかもしれませんが、1段も絞れば改善します。
小絞りF8.0

FnoをF8まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
およそ1段も絞れば、周辺部まで十分な解像度が得られそうです。
総評
NIKON NIKKOR Z 24-50mm F4-6.3は、一見すると安い便利ズームと思いきや、豪華な構成に沈胴機能まで兼ね備えた素晴らしいレンズでしたね。
手抜きの無い設計値に打ち震え、ならが、まさかのコニカミノルタの協業体制に二度驚く。
そこで、ふと、懐かしの友を思い出し豊かな時間に浸ることができる、隠れた銘レンズでありました。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
製品仕様表
製品仕様一覧表 NIKON NIKKOR Z 24-50mm F4-6.3
| 画角 | 84-74度 |
| レンズ構成 | 10群11枚 |
| 最小絞り | F22-36 |
| 最短撮影距離 | 0.17m |
| フィルタ径 | 52mm |
| 全長 | 51mm(沈胴時) |
| 最大径 | 73.5mm |
| 重量 | 195g |
| 発売日 | 2020年8月28日 |


