オリンパスの大口径広角レンズ OLYMPUS Zuiko 28mm F2.0の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真をお探しの方は、記事末尾にありますのでこのリンクで移動されると便利です。
新刊
レンズの概要
Zuiko(ズイコー)レンズとは、OLYMPUSのフィルム一眼レフカメラOMシステム用の交換レンズです。
OMシステムは、35mm版フィルム(フルサイズ)の撮像素子でありながら小型軽量を特徴としており、小粋で溢れる機能美に満ちた素晴らしいカメラシステムでした。
現代では、マイクロフォーサーズシステムへとその思想は引き継がれ、デジタル版のOMシリーズがOMDS社により販売されています。
なお、マイクロフォーサーズ用のレンズ名はM.Zuikoとなっておりますのでご注意ください。
OMシステムは、1972年より発売が開始され多くのZuikoレンズが用意されました。
Zuikoレンズシリーズの特徴的な点のひとつは、FnoがF2.0と当時では大口径なレンズが多数発売されたことが挙げられます。
多くのレンズで「F2.0大口径」と「F2.8あるいはF3.5などの小口径」の2系列からレンズが選べるようになっていたのです。
F2.0仕様のレンズが用意された焦点距離は、21mm、24mm、28mm、35mm、85mm、90mm、100mm、180mm、250mmと、ほぼ隙間なく用意されています。
この「大口径ゆえに」とも言えるのですが、F2.0のラインナップは評価の割れるレンズばかりで、銘玉と言われたZuiko 100mm F2.0のようなレンズもあれば、迷玉と言われたZuiko 35mm F2.0のようなレンズもあったりします。
一眼レフカメラは、ファインダーへ光を導くためのミラーを配置する構造上の理由から広角レンズの設計が難しいという課題があり、さらに小型化を優先したOMシステムは殊更に広角レンズの性能確保が難しかったのではないかと推測されます。
関連記事:一眼レフカメラのしくみ
さて、このZuiko 28mm F2.0は銘玉か?あるいは迷玉か?さっそく分析して参りましょう。
文献調査
2023年現在の日本で出願された特許は、1975年以降の文献は多くがデータ化され容易に見ることが可能です。
それ以前となる1975年以前の特許は電子化が進んでおらず、OMシリーズ創成期に開発された初期Zuikoレンズに関連する特許文献を見ることができません。
しかし、欧米などの海外へも出願されている場合は、外国の特許庁に相当する機関のシステムで電子化された情報を閲覧することが可能となっており、OLYMPUSは海外での出願にも熱心だったようでかなりのレンズの文献を発掘することができました。
今回分析するZuiko 28mm F2.0は、構成のよく似るレンズがUS3862794の実施例2として記載されているようです。
それではこれを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がOLYMPUS Zuiko 28mm F2.0の光路図になります。
レンズの構成は8群9枚、時代的なこともありますが、特殊材料や非球面レンズなどの特筆すべき材料は採用されていません。
被写体側の前側群へ凹レンズを多く配置し初めに光を拡散させ、後群で集光させる構成をレトロフォーカス型と呼びます。
これは全長が短くなってしまう広角レンズを、一眼レフカメラで使う場合にミラーとの干渉を防ぐためにバックフォーカスを長くするための光学設計上の常套手段です。
このレンズはFnoがF2.0と当時の広角レンズにしては大口径なためレンズ構成枚数も少々多めなこともあり、レンズが隙間なくみっちりと詰まった力強い姿ですね。
OMシステムは小型化を目的にしたシステムでもありましたから、大口径レンズであっても小型化を優先していることが伝わります。
縦収差
球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見るとマイナス側にふんわりとふくらむフルコレクション型で、開放Fnoでの柔らかな画質を予感させます。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、現代的なレンズに当然劣るのですが、この当時の大口径レンズとしてはかなり健闘していると言えるでしょう。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、球面収差の傾向に合わせてマイナス側に倒れています。画面の周辺の像高18mmを越えるとサジタル方向とタンジェンシャル方向の不一致が目立ちます。
サジタル方向とタンジェンシャル方向でのズレはいわゆるグルグルボケとか言われる、ボケが渦を巻くようなオールドレンズ独特なボケ効果の原因になります。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、マイナス側に倒れるので実写すると樽型に歪みますが、広角レンズとしては優秀な部類です。
倍率色収差
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、画面の中間部の像高12mmあたりから変動が大きく少々大味を予想させる雰囲気です。
横収差
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。
左列タンジェンシャル方向は、コマ収差(非対称形状)は少なく、意外に解像度が高さそうですが、倍率色収差の影響で色ごとのズレが大きいので白シャツや木漏れ日などの高輝度被写体の撮影に注意が必要そうです。
右列サジタル方向は、画面の中間の像高12mmを越えるとサジタルコマフレアを言われる大きな収差が発生しています。
新発売
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
全体に大きめなスポットではありますが、意外にも形状にはいびつさがなくクセの無い優しい描写になりそうですね。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
こちらは現代的な超高性能レンズ用のスケールなので、1970年代に発売された当レンズには少々厳しい評価です。
画面の隅の像高21mmでは倍率色収差の影響によるスポットの色ごとの別れが具合が甚大ですね。
とはいえ、当時のフィルムという撮像素子は、プリントする時に周辺部がカットされるので一般の人は像高18mmぐらいまでの領域しか見ることがなかったですし、プリントサイズも大きくてキャビネ版(A4の1/4)ですからまったく問題がなかったのです。
デジタル時代になり等倍鑑賞があたりまえの時代とは前提がだいぶ異なるのでご注意ください。
MTF
開放絞りF2.0
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると意外にもしっかりと山の高さ(解像度)を出しており、画面の中間の像高12mmあたりまではかなり健闘しています。
像高12mmを越えてさらに画面の周辺では、タンジェンシャル方向とサジタル方向の山の頂点の位置がずれていきます。
これは像面湾曲の特性が如実に表れていますね。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
F4まで絞り込むとグッと山の高さが改善し、必要十分な性能へ到達します。
総評
OLYMPUS Zuiko 28mm F2.0は、迷玉と言われ私も愛用する35mm F2.0とは少しバランスが異なり、実用性と小型感のバランスの取れた性能のようですね。
とは言えど、さすがに開放Fnoの撮影では、時代を感じるやわらかな描写で懐かしさの滲む写真が撮影できます。
オールドレンズと言うにはまだ少し若めのレンズですが、現代的なレンズには無い独特の性能が楽しめるレンズですね。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
作例・サンプルギャラリー
OLYMPUS Zuiko 28mm F2.0の作例集です。
作例製作の記事はこちらです。
関連記事:OLYMPUS Zuiko 28mm F2.0実写記事
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製品仕様表
製品仕様一覧表 OLYMPUS Zuiko 28mm F2.0
画角 | 75度 |
レンズ構成 | 8群9枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.3m |
フィルタ径 | 49mm |
全長 | 43mm |
最大径 | 60mm |
重量 | 250g |
発売日 | 1973年? |