PR レンズ分析

【深層解説】一眼レフカメラとスマホの望遠レンズを比較分析 PENTAX vs iPhone 120mm F2.8 -分析130

2023年製のapple iPhone 15 Pro Max に搭載された望遠レンズ 120mm F2.8について、なんと1977年製の一眼レフカメラ用のレンズPENTAX 120mm F2.8と比較分析するレビュー記事です。

現代(2023現在)では、世界中の人々が手にしているスマートフォンですが、カメラとしての機能も近年急激に向上し、もはや利便性においてはカメラを越えた部分も多くなりました。

その一方で、誰もが常に身に着けているスマートフォンですが、そのカメラとしての仕組みや構造をご存じの方はとても少ないのではないでしょうか?

そもそも、カメラが内蔵されていると言われても「本当に何枚もレンズが入っているのか?」と不思議に感じるサイズです。

そこで、当記事ではApple iPhoneに望遠レンズについて特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を一眼レフ用のレンズと比較分析します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

それぞれのレンズには専用の詳細分析記事がすでにありますので合わせてご覧ください

新刊

レンズの概要

最も代表的なスマートフォンであるapple iPhoneも2023年の新型機種「iPhone15 Pro Max」へ焦点距離120mm相当の望遠レンズが搭載されました。

iPhone望遠レンズは、テトラプリズムにより折り畳まれた一見するととても不思議な光学系です。

まずは過去の記事で作成したiPhone 15 のテトラプリズム光学系をご覧ください。

被写体側(左)にある3枚のレンズを通過した光は、テトラプリズムにより4回も反射され撮像素子へ入射します。

通常は長くなってしまう望遠レンズの光学系を短く(薄く)折り畳んでいるわけですね。

スマートフォンは薄さが命ですから、テトラプリズムによってスマートに格納できるわけです。

世間一般ではこのように折り畳んだ光学系をPeriscope(ペリスコープ)レンズと呼んでいます。

ペリスコープとは、潜水艦に搭載されたいわゆる潜望鏡の意味ですね。

このテトラプリズム光学系を展開し、直線の光路図へ直した様子が下記になります。

このように展開すると、これまで当ブログを読んでいただいている方なら少し見慣れた形状へ近づきましたね。

さて、ここまでは過去の記事の振り返りでした。

ここで疑問に思うのは、テトラプリズムの効果によりレンズが短く(薄く)なることはわかるが「光学系として短いと言えるのだろうか?」また「性能が良いと言えるのだろうか?」そんな疑問が沸いていきますよね。

そこで、当記事ではiPhoneの望遠レンズと一眼レフカメラのレンズと比較することにより、光学的な意味でのiPhoneレンズの特性を比較分析してみたいと思います。

文献調査

文献調査については下記の個別記事を参照してください。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図の左側がPENTAX M 120mm F2.8(青字)、右側がapple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8(赤字)の光路図になります。

PENTAX M 120mm F2.8は1977年製で、2023年発売のiPhone 15とは約45年もの開きがあります。

今回PENTAXのレンズにしたのは、焦点距離が120mmの単焦点レンズは大手どころのメーカーではPENTXAしか見当たらなかったためです。

さて、図の説明に戻りますと、上図は実際のサイズ比となるように描画しています。

左のPENTAXは35mmフイルム版で現代で言うフルサイズカメラ用で撮像素子の対角線長さは42mmほど、iPhoneの方は特許の実施例によれば撮像素子の対角線サイズが5.6mmとされています。

iPhoneの光学系は当然スマートフォンへ格納するサイズですからとても小さいですね。

光学系は、撮像素子のサイズに比例して焦点距離も小さくなります。(比例の関係)

PENTAXのレンズは焦点距離120mmですが、iPhoneのレンズの実際の焦点距離は17mmになります。

iPhoneに書かれている焦点距離120mmとはフルサイズ換算値というもので実際の値ではありません。

フルサイズカメラで言うところの焦点距離120mmと同じ大きさの写真が撮影できますよ、という意味ですね。

 関連記事:センサーサイズとレンズサイズの関係

撮像素子と光学系には比例の関係にあるので、次にiPhoneのレンズをフルサイズ相当に大きくし比較してみましょう。

上図の左側がPENTAX M 120mm F2.8(青字)、右側がapple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8(赤字)の光路図になります。

iPhoneのレンズをフルサイズ用に拡大するとこのようなサイズ比になります。

PENTAXのレンズは、5群5枚構成で古き良き時代のレンズですから特殊なガラス材料や非球面レンズは採用されていません。

iPhoneのレンズは、3群3枚構成で第1レンズは蛍石にも匹敵する特殊材料でNIKONなどでスーパーEDレンズとされる材料で、他の2枚は両面が非球面のレンズです。

iPhoneのレンズは、少ない枚数ながらも現代技術の粋を詰め込んでいることがわかります。

しかし、純粋な光学系としてサイズを比較すると、なんとiPhoneの光学系の方が大きくなります。

実際のiPhoneのレンズはテトラプリズムにより折り畳まれた状態が最も小さく(薄く)なるように設計されているので、展開した状態を比較するのは公平な比較ではありませんが、さすがにレンズ3枚で望遠レンズを設計するのは苦しいというものでしょう。

なお、以降の記事では収差などを比較しますが、iPhoneのレンズの各種グラフはフルサイズレンズと並べて比較できるようにスケールの表示サイズ比を調整しています。

もしもiPhoneレンズをフルサイズ用に設計し直すとこのような差になる、と見れるように合わせてあります。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見ると、PENTAXのレンズは極小というレベルではありませんが、5枚構成でFnoも明るめな割にだいぶ健闘しています。

iPhoneレンズが極端に悪いわけではないのですが、複雑に折れ曲がる形になります。

一般的にはPENTAXのような少しマイナス側にふくらむまとめ方をフルコレクション型と言って、ボケの美しさと像面湾曲とのバランスを適正化するための基礎的な補正形態です。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、PENTAXのレンズはd線(黄色)とF線(水色)の波長を重ねて解像度を高め、色味の目立つC線(赤)にg線(青)を被せ緩和させる古典的補正方法のお手本のようなスタイルです。

一方のiPhoneのレンズは、d線(黄色)とF線(水色)は少し補正不足で、C線(赤)とg線(青)は離れてしまっています。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、iPhoneは非球面レンズを採用していること要因でPENTXAに引けを取らないレベルになっています。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、望遠レンズでは発生しづらいこともあって双方ほぼ同じです。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、PENTAXのレンズはg線(青)のみ少々大きめですが時代的に不思議というほどのレベルではありません。

一方のiPhoneですが、現代のカメラは倍率色収差を画像処理により補完してしまうことが多いなか、レンズとして十分レベルに補正しているようです。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、PENTAXはd線(黄色)のコマ収差(非対称 )は少ないのですが、倍率色収差の要因でg線(青)のフレア(倒れ)が大きいようです。

iPhoneは、画面の中間の像高からのコマ収差も大きめで、さらに画面周辺でのハロ(傾き)が強いようです。

右列サジタル方向は、双方同程度ですね。

新発売

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

軸上色収差や倍率色収差の補正方針の違いが如実に表れているようで、PENTAXはg線(青)が目立ちますが、iPhoneはF線(水色)やC線(赤)が大きくなります。

g線(青)というのは人の目に感じる強度(視感度)としては低いので、解像度低下にはあまり影響しませんが、視感度の高いF線(水色)は解像度に甚大な影響が出ます。

また、C線(赤)は人の感性を強く刺激する色なので目立ちやすく注意が必要です。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

こちらの拡大スケールは現代の超高性能フルサイズ用なので今回のような古い時代のレンズや、スマートフォン用のレンズには厳しすぎる条件ですね。

MTF

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると

PENTAXのレンズはまとめ方が正しいので、現代的なレンズには劣りますが、たった5枚のレンズでしっかりしたMTFの特性を描いています。

iPhoneはさすがに3枚では色収差の補正に限界があるので少々苦しい特性です。

総評

おそらく世界初で世界最後の比較であろうPENTAX M 120mm F2.8とapple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8はいかがでしたでしょうか?

PENTAXの収差補正の巧みさもありますが、光学的なセオリー逸脱したiPhoneの性能は少々苦しいものでした。

しかしながら、iPhoneには最新の画像処理技術にAI的な処理も施されると予想されますので、このハンデを打ち破るような画質を見せつけてくることも容易に予想できます。

今後の発売と実写が楽しみでなりませんね。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

製品仕様表

製品仕様一覧表

smc PENTAX M 120mm F2.8apple iPhone 15 Pro Max 120mm F2.8
画角10.2度10.2度
レンズ構成5群5枚3群3枚
最小絞りF--F2.8
最短撮影距離1.2m
フィルタ径--mm
全長--mm
最大径--mm
重量---g
発売日19772023

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

もしよろしければ下のボタンよりSNS等で共有をお願いします。

  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

-レンズ分析
-, , , ,