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【深層解説】 富士フィルム超大口径中望遠レンズ FujiFilm Fujinon XF 56mm F1.2-分析046

富士フィルム フジノンXF 56mm F1.2の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

新刊

レンズの概要

FujiFilmのレンズ交換式デジタルカメラ「Xシリーズ」は、2012年発売のFUJIFILM X-Pro1から始まりました。

このカメラシステムの特筆すべき点は「フィルムシミュレーション」でしょう。

ワタクシも含むカメじぃ達の心を鷲づかみにする特殊機能により、低迷するカメラ市場においてもじわりじわりと勢力を拡大する恐ろしいカメラシステムです。

さて、今回紹介するXF 56 1.2は、2014年の発売ですからシリーズの早期から存在する大口径中望遠レンズです。

FujiのXシリーズの撮像センサーサイズは、フルサイズより一回り小さいAPS-Cサイズであるため、焦点距離は「換算」して捉える必要があります。

XF 56mmの焦点距離をフルサイズに換算した場合、約85mm相当となるのでいわゆるポートレートレンズの画角となります。

なお、このレンズは「無印」と「APO」の2種のモデルが存在しますが、APOはアポダイゼーションフィルタを内蔵したモデルで、ボケ像がより滑らかになります。

私的回顧録

まずFujiFilmと言えばフィルムの話をびっしりと書き尽くしたいところですが、今回はぐっとこらえます。

当記事は、当ブログで初のAPSフォーマットのレンズの分析となりますので、今回はセンサーサイズの違いと収差の関係について説明します。

まず基本的な光学系(レンズ)の特性として、レンズ全体を縮小すると収差も縮小される(少なくなる)比例関係が成り立ちます。

フルサイズ撮像素子の対角線長さは約21mmで、APS-Cサイズ撮像素子は対角が約14mmですから、単純計算ではフルサイズレンズを約66%に縮小すればAPS-Cセンサ用のレンズとして使えるサイズになる関係です。

66%になると言われてもあまり大きな違いに感じませんが、縦横が66%減すると重量は約1/3以下になる計算ですから甚大な差があります。(あくまで単純計算です)

下図は一般的なAPS-Cサイズとフルサイズの撮像素子サイズを比較したものです。(各社数値は微小に異なります)

さて、ここからが本題です。

「APS用レンズをフルサイズ用レンズと性能を比較するにはどうするか?」と言う問題がありますが、当ブログでは収差図等の「スケールを約66%にする」ことでフルサイズの分析結果とグラフを並べて比較できるようにすることにしました。

感覚的には、フルサイズでもAPS-Cでも同じ鑑賞サイズ(印刷サイズ)にして並べたと想定してレンズを比較することにします。

しかし、注意事項があります。この比較方法は収差の比較としては妥当ですが、例えば「フルサイズからA3プリントした場合」と、「APSからA3プリントをした場合」は、引き延ばし倍率が違いますから引き延ばしによる劣化分で撮像素子の小さいAPSが収差量以上に不利となります。

また、撮像素子のサイズが小さい方がノイズ等が大きくなる問題もありますので真の比較はなかなか難しいとご了承ください。

センサーサイズとレンズサイズの関係性についてまとめた記事もご参照ください。

 関連記事:センサーサイズとレンズサイズ

さて、注意事項は終わりまして分析の方へ参りましょう。

文献調査

XFレンズは現代のレンズですから特許を探せばちょちょいと出てきます。発見した特許文献の特開2015-141384の実施例3を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

また、本レンズと同時にいくつかのXFレンズを発見しましたので折を見て順次分析したいと思います。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がFuji XF 56mm F1.2の光路図になります。

8群11枚構成、第2レンズと第3レンズは色収差を良好に補正するためのEDレンズ(特殊低分散材料)を採用し、非球面レンズを1枚導入しているようです。

絞りより撮像素子側には3枚のレンズを貼り合わせています。3枚を貼る構成は現代はあまり見かけません。コーティング技術の発達により反射による光量低下対策として貼り合わせる必要はありませんし、昔に比べると構成枚数が増加していますから無理に貼る必要は無いのです。

それでも3枚を貼ると言うことは、よほど収差の補正に効果的な構成になっているのでしょう。3枚貼りは凸凹凸の順でレンズが並びますが、前後の凸レンズは屈折率が2.0を超える最新の超高屈折率材を使用しているようですし、この製品の要はこの3枚貼りにあるのでしょう。

Fnoが1.2と大口径なこともあり、撮像素子よりもレンズ全体が大径です。フルサイズでこのレンズを採用するとかなりの重量になるのでしょうが、そこはAPSの利点でかわいいサイズに収まっています。

FujiFilmのXシリーズはミラーレスシステムですが、過去の分析データでミラーレスの中望遠としてSONY 85mm F1.4 GMを分析しております。

Fnoは1.4と1.2で異なりますが、偶然にも構成枚数が同じすしフルサイズレンズの一例として大変参考なりますので是非ご覧ください。

 関連記事:SONY FE 85mm F1.4 GM

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

収差図等のスケールはフルサイズレンズとも比較できるように、スケールをフルサイズ分析時の約66%にしております。

球面収差から見てみますと、F1.2の大口径レンズでありながら略直線レベルの特性でかなり驚異的な補正を行っているようです。

時代も焦点距離も異なりますが、過去に分析したF1.2のレンズとしてZuiko 50mm F1.2の分析結果をご覧いただけると、いかに驚異的な補正が行われているかおわかりいただけるかと思います。

 関連記事:Zuiko 50mm F1.2

軸上色収差はg線(青)が、現代的な設計例としてわかりやすいSIGMA Artシリーズなどと比較すると若干大きいですが、こちらはF1.2の大口径ですから十分に健闘していると言えるでしょう。

像面湾曲

像面湾曲も球面収差の美しさに合わせるように補正されています。

なお、像面湾曲や歪曲のグラフにおける縦軸スケール最大値は14.1mmとしていますが、これはFujiFilm X-pro3の仕様表に記載されている撮像素子の縦横サイズ(23.5×15.6mm)から算出し決定しました。

歪曲収差

中望遠域の焦点距離のレンズは、歪曲収差が小さくしやすい焦点距離ではありますが、ほぼゼロと言えるレベルに仕上げているようです。

倍率色収差

倍率色収差は流石に画面隅14mmでは少々g線(青)がほんのり大きくなるものの、周辺部11mmまでは十分に補正されています。

横収差

左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

中間像高でのタンジェンシャル方向のコマ収差がありますが、F1.2の大口径を鑑みれば十二分な補正が行われています。

軸上色収差の苦しさが少々滲み出ていますね。

新発売

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.2(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

サジタルコマフレアも十分に補正されていますF1.2ですか…

これが…

スポットスケール±0.07(詳細)

MTF

開放絞りF1.2

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放Fno1.2におけるMTFはとてもF1.2とは思えないレベルで高く、頂点の一致度も申し分ない特性です。画面全域で極めて解像性能が高いことがうかがえます。

評価周波数はスケールは逆数なので、本数が多いほどより細かい(厳しい)事を示す指標です。よってフルサイズとAPSの比の大きい側になりますので、通常の20本/mmの指標を1.53倍し30本/mm(端数丸め)として厳しくして評価すると「同じ印刷倍率で見た」の条件になります。

30本/mmとすることで、フルサイズ用レンズ(20本/mm)と並べて評価することが可能です。

大口径レンズなので中間のF2.0も確認しました。この時点ですでに理想値に近いレベルまで特性が向上しています。

小絞りF4.0

総評

焦点距離は換算85mm相当で大口径F1.2ですから、分析する前は「少々味のあるレンズ」なのだろうと思っておりましたが、極めて高い性能に驚きました。

また、フルサイズのレンズでこの仕様ならば重量が1kgに達する製品もおかしくはないものですが、本製品はなんと重量は405g、フィルタサイズはφ62です。

APSサイズによる恩恵ではありますが、この絶妙な製品サイズと重量感、そこから生まれる道具としてのバランスと完成度が高さが、玄人に愛されるFujiFilm系カメラシステムの秘密の一端なのでしょう。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

このレンズに最適なカメラをご紹介します。

作例・サンプルギャラリー

Fuji XF 56mm F1.2の作例集は準備中です。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 FujiFilm Fujinon XF 56mm F1.2

画角28.5度
レンズ構成8群11枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.7m
フィルタ径62mm
全長69.7mm
最大径73.2mm
重量405g
発売日2014年12月

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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