カメラを購入すると必ず必要なレンズですが、焦点距離という数値で分類されていることはご存じでしょう。
この焦点距離ってわかるようでわからないそんな数値じゃありませんか?
この記事では、そんなカメラ用語の中でも「焦点距離」についてわかりやすく紹介します。
さて、私こと高山仁は写真用レンズの分析ブログ「レンズレビュー」を運営するいわばレンズのプロです。
そんな私が、わかるようでわからないカメラ用語を基礎から丁寧に解説しますが、数式はできるだけ使わずに図や事例で丁寧にわかりやすく紹介します。
レンズはサブスクする時代
焦点とは
焦点距離の「焦点」の定義から解説しましょう。
焦点距離の「焦点とは、レンズに入射した光が集まる点」です。
子供の頃、理科の授業で虫眼鏡で太陽の光を集め紙を焦がす実験をしませんでしたか?
虫眼鏡に対して太陽光の集まる点がすなわち焦点です。
注:鍛え抜いた専門家が行っています。決してマネしてはいけません。
この様子をレンズ設計で使われる光路図で表現するとこのようになります。
画面左側からは太陽から放射された光(光線)がやって来て、虫眼鏡(レンズ)を通過すると屈折の効果で右側へ集光され焦点を結びます。
補足説明を入れて、少しわかりやすくしてみました。
撮像素子とは、昔のカメラではフィルムに相当し、現代のデジタルカメラではCOMSセンサーが採用されています。
さらに光路図に関するより詳しい記事は下記をご覧ください。
関連記事:光路図を図解
距離とは
前の図で「レンズ」と「距離」の関係はわかりましたが、どこからどこまでが焦点距離なのでしょうか?
普通に考えると「レンズの表面か裏面から焦点までの距離だろう」と考えてしまいますが「それは違います」。
焦点距離とは「レンズの主点から焦点までの距離」を指します。
ここで謎の「主点」が登場します。
簡単な主点のイメージとして、両面が同じカーブの1枚の凸レンズの場合「主点とは、レンズのおよそ中心に相当します」
主点は、レンズの形状や材質から計算で求めることもできますが、今回は作図により求める方法で特定してみましょう。
主点は「入る光線」と「出る光線」を延長し接する位置になります。
緑の線はレンズに「入る光線」を延長したもので、青の線はレンズから「出る光線」を延長したものです。
2つの線が重なるポイントが主点になります。これで、焦点距離の定義がわかりましたね。
主点の定義ができたので、焦点までを繋ぐと、焦点距離を図示することができました。
バックフォーカス
焦点距離と間違えやすい言葉に「バックフォーカス」があります。
バックフォーカスとはレンズの最も撮像素子側面から焦点までの距離を言います。
「ミラーレスカメラはショートバックフォーカスの光学系が採用できるから光学性能が良いのだ」とか、さらりと言えるとツウっぽいですね。
フランジバック
もうひとつ焦点距離と間違えやすい言葉として「フランジバック」もありますね。
フランジバックとは、レンズを固定する鏡筒(きょうとう)とカメラの取り付け面「マウント面(フランジ面)」から焦点までの距離を指しています。
カメラとレンズの結合部はカメラ業界の慣例で「マウント面」と呼びますが、JISなどの工業規格では円筒状の結合部のことを「フランジ面」と称するのが一般的です。
「このオールドレンズはフランジバックがずれているから調整が要るな」とか言うと、ただ者ではない雰囲気を醸しますね。
たくさんのレンズの焦点距離
1枚のレンズの焦点距離は、レンズのおよそ中心から焦点までの距離でした。
当ブログのレンズ分析記事をご覧になったことがある方はお気づきでしょうが、実際の写真用レンズはたくさんのレンズ枚数で構成されています。
たくさんのレンズで構成されている場合の「主点」はどこになるのでしょうか?
その場合でも同じように作図により主点の位置を確認することができます。
このレンズは、一眼レフカメラ時代の典型的な標準レンズNIKKOR 50mm F1.4Dで、ダブルガウス型と呼ばれる基本形です。
簡略化のため画面中心に焦点を結ぶ光の外周部だけを描画しています。
このレンズの主点と焦点距離を確認してみましょう。
主点はレンズがたくさんあっても、「入る光線」と「出る光線」の接する位置として求まります。
このレンズは主点がレンズの後ろ側(撮像素子側)にありますね。
かつてカメラの主流であった一眼レフカメラは、レンズと撮像素子の間にファインダーへ光を導くためのミラーを配置する必要がありました。
そのためレンズと撮像素子の間隔を開けなければなりませんでした。
結果として、一眼レフカメラの標準レンズや広角レンズでのレンズの位置は、主点よりも被写体側へ片寄っています。
関連記事:一眼レフカメラのしくみ
さらにもう少し、イメージ的に主点の意味を説明します。
現実のレンズは、枚数がたくさんあったり、厚みがありますが、これを1枚のペラペラなレンズに置き換えた位置それを主点であると表現できます。
このような、ペラペラで収差の発生も無い1枚のレンズを「仮想レンズ」あるいは「理想レンズ」と表現します。
現実のレンズを仮想的に1枚のレンズで表現する位置が主点とも言えるわけです。
さて、焦点距離の定義はおわかりいただけたでしょうが、イマイチ「この焦点距離を知ることは何に便利なのか?」がわかりませんよね。
続いて、「画角」との関係性を知ることで焦点距離の実用的な意味がわかります。
焦点距離と撮像素子と画角
世の中では「焦点距離とは画角の事だ」と説明をされることがあります。 ※画角(がかく)
画角とは撮影時に「写る角度」を言いますが、焦点距離とどのような関係があるのかここから説明します。
「写る角度」である画角は、焦点距離と撮像素子のサイズにより決定されます。
フィルムカメラの撮像素子は一般的に35mm版フィルムという規格のサイズで、デジタルカメラではフルサイズセンサーが同じ大きさに相当します。
※35mm版:正式には135フォーマット、ライカ版とも呼ばれる
その大きさは下図のようになります。フルサイズをわかりやすい大きさに例えると500円玉(直径26.5mm)がギリギリ入らないぐらいの縦寸法です。
35mmフィルムカメラやフルサイズのデジタルカメラは撮像素子が同じなので、同じ焦点距離のレンズならば写る角度は同じになります。
下図ではNIKKOR 50mm F1.4Dの焦点距離と画角を説明するものです。
この図では、画面の中心に焦点を結ぶ光線と、撮像素子の隅に写る光線を描写しています。
要は、撮影される最大の範囲ですね。
写る範囲は撮影距離によって変わりますが、写る角度(画角)は焦点距離と撮像素子によって決まります。
フルサイズ用のレンズどうしで、同じ焦点距離のレンズなら、同じ距離にピントを合わせると「写る範囲は同じ」になります。
焦点距離の違い
焦点距離がわかると「写る範囲がわかる」ところまで話ができました。
より理解を深めるため、さらに「いろいろな焦点距離のレンズ」を見てみましょう。
標準レンズ
最も代表的な撮像素子サイズであるフルサイズ(35mm版)では、焦点距離約50mmのレンズを「標準レンズ」と呼びます。
焦点距離50mmのレンズは、各社カメラシステムの基準とされており、様々なバリエーションがあるのも特徴です。
かつてのフィルム時代の一眼レフカメラの標準レンズは、先ほどまで説明に使用したNIKKOR 50mm F1.4Dのようなダブルガウス型が定番でしたが、デジタル一眼レフカメラの時代になりますと様々タイプへ進化しています。
一眼レフカメラの標準レンズ
超高性能レンズの先駆けSIGMA Artシリーズより、一眼レフ用の標準レンズ50mm F1.4 DG HSMは下図のようになっています。
一眼レフカメラの場合、ミラーとの干渉をさけるため主点よりも前(左側)の被写体側へ多数のレンズを配置することで高性能化を達成していることがわかりますね。
ミラーレス一眼カメラの標準レンズ
次に最近主流のミラーレス一眼カメラの標準レンズであるNIKON Z 50mm F1.8を見てみましょう。
ミラーレスカメラでは、その名の通りミラーが不要となりました。
そのため、ミラーがあった撮像素子側の空間へレンズの配置が可能となり、小型化や高性能化を達成しています。
光学的には、主点を光学系のほぼ中央へ配置していることが大きな特徴で、結果として絞りを中心に前後が対称なレンズ配置を実現しています。
対称配置のレンズは、倍率色収差や歪曲収差の補正が容易となる特徴があり、レンズ配置の自由度向上はミラーレスカメラが高性能化できた一因ともなります。
関連記事:各社ミラーレス用50mm F1.8の比較
広角レンズとは
標準レンズよりも広い範囲(画角)を写すことができるのが「広角レンズ」です。
フルサイズ(35mm版)では、焦点距離35mm以下の数値が小さい値のレンズを「広角レンズ」と呼んでいます。
山岳や自然風景、あるいはスナップ撮影に好まれます。人物は小さく写るので集合写真に向きますね。
今回は、標準レンズ50mmのおよそ半分となる焦点距離24mmの広角レンズで説明します。
一眼レフカメラの広角レンズ
下図はフィルム時代に一眼レフカメラ用に開発されたOLYMPUS Zuiko 24mm F2.8レンズです。
オールドレンズと言われても仕方のない時代のレンズです。
図を見ると、広角レンズは焦点距離が短いレンズなので、主点は撮像素子に非常に近い位置になります。
しかし、前述した通り一眼レフカメラではミラーを配置する関係から、撮像素子の近くにはレンズを配置できません。
性能が良い対称型レンズ配置は主点がレンズの中央に来てしまうので、主点を大きく離した非対称な構成にならざる得ません。
一眼レフカメラの広角レンズは、いわゆるレトロフォーカス型と言われる「被写体側へ負レンズを多く配置した構成」にすることで、主点とレンズを大きく離した光学系を実現しました。
ただし、これにより主点配置の問題はクリアできますが、対称型光学系に比較すると光学性能が劣るのが一眼レフカメラ用の広角レンズの悩みでした。
そのため、古い時代の一眼レフカメラの広角レンズは、Fnoを少し暗めに設定して収差が少なくなる仕様としていたのです。
ミラーレス一眼カメラの広角レンズ
続いてミラーレス一眼カメラの広角レンズSONY FE 24mm F1.4GMです。
一眼レフ時代では大型化してしまう大口径広角レンズですが、ミラーレスの恩恵で撮像素子付近を有効利用することで大型化を抑制しつつ高性能化を実現しています。
一眼レフ時代には使えなかった空間にミッチリとレンズが配置されていますね。
望遠レンズとは
標準レンズよりも反対に狭い範囲(画角)を写すのが「望遠レンズ」です。
フルサイズ(35mm版)では、焦点距離70mm以上の大きな値のレンズを「望遠レンズ」と呼びます。
望遠レンズは、空間を狭く切りぬくことで、遠くの被写体を拡大したかのような写真を撮影することができます。
広角レンズとは異なり、望遠レンズはレンズ自体が長いので、一眼レフカメラのミラーが邪魔にはなりませんから、主点に対してレンズを撮像素子側へ近づけるようにして設計します。
これは望遠レンズは長くなりやすいため、より短く小型にすることを重視するためです。
今回は、標準レンズ50mmのちょうど2倍となる焦点距離100mmのOLYMPUS Zuiko 100mm F2.0で説明します。
広角レンズとは逆にレンズの前側(被写体側)に主点があります。
主点よりも被写体側にレンズが配置されていると「長いレンズ」となってしまいます。
そのため長くなりがちな望遠レンズは、主点よりも撮像素子側を上手く活用することが、望遠レンズの設計的な重要ポイントになります。
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焦点距離とその特徴
次に焦点距離の数値と、その関係性を改めて考えてみましょう。
焦点距離と撮影範囲の関係性を標準、広角、望遠の3本のレンズで比較します。
同じ距離から撮影すると
まずは焦点距離の違うレンズを同じ距離から撮影する様子からシミュレーションしてみましょう。
下図は、標準、広角、望遠のレンズを同じ撮影距離(3メートル)にて撮影する様子です。
画面の上端と下端に入射する光に限定して光線の経路を計算し、上下方向の写る範囲(画角)を表現しています。
光線計算をしたリアルな描写ゆえにレンズが米粒みたいなサイズになってしまいますね。
標準レンズの焦点距離50mmに対して、今回用意した広角レンズは24mmなので焦点距離は約半分(1/2)の範囲になります。
この時、広角レンズの撮影範囲は標準の約2倍広い範囲になります。
また、望遠レンズは焦点距離100mmを用意したので標準の焦点距離の2倍の範囲に相当します。
この時、望遠レンズの撮影範囲は標準の約半分(1/2)の狭さの範囲になります。
焦点距離と撮影範囲は反比例の関係になると言えます。
焦点距離が半分(1/2倍)になれば、写る範囲は2倍と覚えるのが良いでしょうか。
実際に人物を撮影した場合のイメージ図を用意しました。
主被写体となるモデルは、約160cmを想定しています。
それでは各レンズでどのような範囲が写るのか下図をご覧ください。
一番右は、望遠レンズでの撮影結果ですが、顔のアップ撮影に相当します。
中央は標準レンズでの撮影結果ですが、人物のサイズは望遠の撮影のおよそ半分になり、これはバストアップ撮影に相当します。
さらに一番左は広角レンズでの撮影結果ですが、人物のサイズはさらに半分になり、背景が大きく写り込みます。
同じ撮影範囲になるように撮影すると
今度は反対に標準レンズと広角レンズを使って「同じ撮影範囲」となるように配置します。
標準50mmに対して広角24mmのレンズは、約2倍広く写るので、被写体に近づき撮影距離をおよそ半分(1/2)にすると標準レンズと「同じ撮影範囲」にすることができます。
分かりやすくモデルをおいて確認してみましょう。
さて「同じ範囲」が写るように調整したのですが、実際には「同じ写真にはなりません」。
ピントを合わせている主被写体(モデル)はおよそ同じサイズに写りますが、モデルの背景のサイズが変わってくるのです。
背景の写る範囲は図中の破線の範囲となります。
広角レンズ(青線)は、標準レンズ(赤)よりも角度が広いので、より広い範囲の背景が写ることになります。
下図は、撮影結果のイメージです。
標準レンズと広角レンズで、距離を調整すればピントを合わせた主被写体はおよそ同じ大きさに撮影することができますが、広角レンズは背景が広く写し込まれます。
焦点距離が異なると撮影位置を変えても撮れる写真は同じにはならないので、レンズの使い分けが必要になるわけですね。
例えば、主被写体と周辺の情景を同時に写したい時は、広角レンズを使うとよいでしょう。
逆に、望遠レンズを使うと背景がほとんど写り込まないので、主被写体だけを際立たせる効果を得ることができます。
撮像素子が変わると
ここまでは撮像素子が同じフルサイズ(35mm版)であることを前提として検証を行いました。
撮像素子のサイズが異なる例として、フルサイズと供に現在主流の撮像素子であるAPS-Cサイズの場合を比較して見てみましょう。
フルサイズとAPS-C
まず、素子の大きさを比較してみましょう。
フルサイズに比較するとAPS-Cサイズは、一回り小さい撮像素子になっています。
フルサイズとAPS-Cの撮影範囲を比較
フルサイズとAPS-Cで撮影する時の光路を重ねて画角や撮影範囲を比較してみましょう。
フルサイズを示す赤線と、APS-Cサイズを示す青線は撮影範囲が一回り違うことがわかります。
同じ標準レンズでも、APS-Cサイズの撮像素子のカメラで撮影する場合、撮影範囲が一回り小さいため望遠レンズで撮影したような結果となります。(画角が狭くなる)
あるいは、フルサイズの撮影範囲を小さく「切り出した」とも言えますね。
数値的にはフルサイズ用のレンズをAPS-Cサイズで使う場合、フルサイズレンズの焦点距離を1.5倍した値に近い撮影範囲になります。
フルサイズレンズをAPS-Cカメラで使う場合の焦点距離効果 = 焦点距離 × 1.5
例えば、フルサイズ用標準50mmをAPS-Cカメラで使うと50 × 1.5 = 75mmの関係になり、焦点距離75mmの望遠レンズで撮影したかのような撮影効果を得ることができます。
APS-Cサイズのカメラを使っても焦点距離が変わるわけではありませんが、画角(撮影範囲)は変わります。
この画角の変化を感覚的にわかりやすくするために、フルサイズカメラに換算する(1.5倍する)ことが慣例となっています。
この換算を「フルサイズ換算」と呼んでいます。
ここで出てくる「1.5」は、フルサイズとAPS-Cの素子サイズの比率で、メーカーごとに微妙に異なりますが1.5が一般的です。
近年、フルサイズカメラの普及が進んでいますが、カメラも大柄ですし特に望遠レンズはとても重く高価です。
一方のAPS-Cサイズのカメラは小型・軽量でありながら望遠撮影の効果も得ることができるので、スポーツ系の撮影などでは現在でも大変重宝されますね。
焦点距離と名称
代表的な焦点距離ごとの名称をまとめます。フルサイズに対応するAPS-Cでの焦点距離は、切りの良い値にしています。
範囲名称 | フルサイズの焦点距離 | APS-Cの焦点距離 |
---|---|---|
超広角 | 12mm,14mm,16mm,18mm | 8mm,10mm,11mm12mm |
広角 | 21mm,24mm,28mm,35mm | 14mm,16mm,18mm,23mm |
標準 | 40mm,50mm,55mm,58mm | 27mm,33mm,35mm,39mm |
中望遠 | 75mm,85mm,100mm,135mm | 50mm,56mm,70mm,90mm |
望遠 | 180mm,200mm,250mm,300mm | 120mm,130mm,160mm,200mm |
超望遠 | 400mm,600mm,800mm,1200mm | 250mm,400mm,500mm,800mm |
この名称は一般的に使われていますが正式な分類が決まっているわけではありませんので、当ブログ内での分類です。
関連情報
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関連記事:光学設計者が進める光学の入門書
最後にレンズに関する専門用語である「収差」に関する説明記事も用意しておりますので、参考にご覧ください。