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【深層解説】シグマ高倍率超望遠ズーム SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM -分析122

シグマ フルサイズ用の高倍率&超望遠ズーム APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

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レンズの概要

近年のSIGMAは、Artラインに代表される大口径単焦点レンズのイメージが定着しておりますが、昔から超望遠レンズに力を入れているメーカーでもあります。

例えば、300mm F2.8や800mm F5.6などのカメラメーカー独壇場である超望遠レンズの市場にもかつては製品を発売していました。

近年SIGMAの超望遠レンズは単焦点からズームレンズへ主力製品をシフトしており、ヒコーキや鳥、鉄道、モータースポーツ写真などの分野で人気を博しています。

今回分析するSIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMは、高変倍率10倍を達成しながら、焦点距離500mmに至る超望遠と脅威の高仕様レンズです。

一般に焦点距離400mmを越える仕様を「超望遠」と称し、そしてズーム倍率が5倍を超えると「高倍率」と分類するので、このレンズはまさしく高倍率超望遠ズームレンズと呼ぶにふさわしい仕様ですね。

続いて、SIGMA高倍率超望遠ズームレンズの系譜を確認してみましょう。

  • 50-500mm F4.5-6.3 EX DG HSM(2005)16群20枚
  • 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM(2010)16群22枚当記事
  • 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM | Sports(2018)19群25枚
  • 60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS HSM | Sports(2023)19群27枚

なお、今回は別系統といたしましたが、150-600mm F5-6.3 のラインもあり、SIGMAの焦点距離600mmに対する熱い執念を感じます。

フィルムカメラ時代の末期2005年に先代となる初代レンズがEXシリーズから発売されており、当記事のレンズは二代目として一眼レフのデジタル化が一般化した2010年に発売されています。

2010年頃のカメラ市場を振り返ると、デジタル一眼レフカメラがまさに飛ぶように売れた時期です。

この頃、NIKON D3などのフルサイズカメラの販売が始まっていましたが、まだ主流は撮像素子サイズが「APS-C」のカメラでした。

「APS-Cカメラ」にフルサイズ用レンズを装着すると、画角として焦点距離が約1.5倍になることから、望遠レンズのユーザーはむしろ好んでAPS-Cを愛用していたようにも思います。

超高画素のミラーレス一眼カメラが主流となった現代の感覚なら「トリミングすれば良い」とも考えられますが、当時は大きくトリミングするほど画素数が十分ではなかった時代なので感覚が異なりますね。

APS-Cのカメラなら焦点距離600mmのレンズを画角として1.5倍で使えるのですから、換算焦点距離900mm相当として使えます。

フルサイズでは実現しづらい焦点距離ですよね。

文献調査

当時の特許をつぶさに調べると特開2011-39260の表紙に記載された構成図が超望遠ズームらしき形態であることがわかりました。

内容を詳細に確認すると、実施例2が当記事のレンズの形態に近いことがわかりました。

この文献の実施例を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がSIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は16群22枚、黄色で示すレンズは望遠レンズにおいて補正が困難である軸上色収差に効果的な特殊低分散材料SLD(SpecialLowDispersion)ガラスで、4枚も採用されています。

続いて、ズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは全7ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、このズーム構成を凸(正)群先行型と表現します。

この凸群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸群先行型と見て間違いありません。

第1ユニット、第4ユニット、第5ユニット、第6ユニット、第7ユニットが望遠端になるにつれて被写体側へ移動し、第2ユニットは反対に撮像素子側へ移動し、第3ユニットのみ固定されています。

なにしろ高倍率かつ超望遠のズームだけあり、高度の収差補正が必要なためでしょう、7つのユニットが複雑怪奇に移動する現代的なズーム移動構成になっています。

望遠ズームレンズには、第1ユニットが固定の物と飛び出す(移動する)物の2種類があります。

第1ユニットが飛び出すタイプは、広角端の状態にすると全長をとても小さくできるので、高い携帯性を求めるユーザーに人気です。

第1ユニットが固定のタイプは、堅牢性が高く、ホコリや水分の入り込みも少なく、報道機関など荒っぽい現場では好まれるようですね。

しかし、高倍率かつ超望遠のレンズですから、第1ユニットを固定式にしますとさすがに巨大になりすぎると予想されますので、移動式でも仕方がありませんね。

第3ユニットには、OS(Optical Stabilizer)機構を備えており、撮像素子側の3枚のレンズユニットを瞬時に移動させることで手振れを打ち消します。

手振れ補正機能は、超望遠ズームではなくてはならない機能ですね。

第7ユニットを移動させることで「ピントを合わせ」を行っており、HSM(Hyper Sonic Motor)を駆動源とすることで超高速な動作を実現しています。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、左側の広角端は若干の膨らみがありますが、Fno4.5と控えめですからあまり影響度無いでしょう、右側の望遠端は焦点距離500mmと言うのが信じ難いレベルで補正されています。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、広角端、望遠端ともに極度に小さく補正されています。

このレンズの名称には「APO」とありますが、これは軸上色収差の補正レベルを指している表現です。

軸上色収差の補正具合を指す用語を少し紹介しましょう。

まずAchromat(アクロマート)とは、収差図で「f線(水色)~C線(赤)」波長にして「486nm~643nm」の範囲の軸上色収差が補正されていることを指し、色収差がほどよく補正されているという表現です。

ただしAchromatの場合、さらに短波長のg線(青)については波長が430nmなので少し補正不足の状態とも言えます。

Achromatは、光学技術が発展途上だった、少し古い時代のレンズの補正具合と言えるでしょう。

このレンズにも刻まれたApochromat(アポクロマート:APO)は、さらにg線(青)の色収差も補正され、「軸上色収差が完璧に補正されたレンズ」であることを示します。

一般的に焦点距離が長くなるほど軸上色収差の補正は困難を極めますが、SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3は高倍&超望遠の仕様でありながら「APO=完璧な軸上色収差の補正を実現」と名乗っているわけですね。

実際に見事に補正されていますから、景品表示法的な観点からもまったく問題ありません。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、基準光線であるd線(黄色)は左図の広角端も右図の望遠端もほどよく補正されています。

望遠端のg線(青)を見ると、画面周辺部に相当するグラフの上端側で大きく曲がっています。

光の波長(色)ごとの像面湾曲が、画面の周辺部で大きく変動するようです。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、高倍率レンズとしては平均的か少々良いレベルで、左図の広角端ではグラフがマイナスに倒れるので樽型に歪み、右図の望遠端ではグラフがプラスに倒れるため糸巻き型になります。

超望遠ズームだけに望遠端側の方が歪みが大き目です。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mm

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、広角端も望遠も画面周辺部に相当するグラフの上端側でg線(青)が大きく曲がります。

広角端と望遠端でちょうど反対のような形になっているので、この構成枚数ではこれ以上にバランスの良い形にできない苦しさが滲み出ています。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mm

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、広角端も望遠端も画面の周辺の像高18mmを越えるとコマ収差が目立ち、さらに色ごとにグラフのズレが目立ちます。

この色のずれは倍率色収差が大きいことが影響しています。

右列サジタル方向は、Fnoが控えめなために良く収まっています。

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スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

標準スケールで見ますと、画面の中心のスポットサイズはApochromat(アポクロマート:APO)と名乗るだけに素晴らしく鋭くまとまっています。

画面の周辺の像高18mmを越えると、色ごとのスポットサイズはほど良くまとまっていますが、C線(赤)とg線(青)で位置のズレが目立ちます。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

拡大すると色ごとのズレがはっきりとわかりますね。これが倍率色収差の影響です。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離50mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離500mm

開放絞りWIDE F4.5 / TELE F6.3

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると、広角端も望遠端も高倍ズームとは思えない高さです。

左図の広角端は、画面の周辺部まで山の高さがありますが、位置のズレが気になります。

一方の右図の望遠端は、画面の周辺部へ向かって山の高さの低下がわかります。

さすがに高倍率かつ超望遠仕様の苦しさが滲みますが、ズームレンズ創成期のレンズ性能と比較すれば倍ほどの焦点距離の仕様を達成しながらこの高性能ですから隔絶の進化を遂げているとも捉えられます。

だいぶ仕様は異なりますが、一昔前の望遠ズームレンズの仕様はこちらでご確認ください。

 参考記事:NIKON Ai Zoom Nikkor ED 50-300mm F4.5S

小絞りF8.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

右図の望遠端は元のFnoとさほど変わりませんので大きな変化ではありませんが、左図の広角端は山の高さが向上し十分な解像度になります。

総評

高倍率かつ超望遠ズームレンズであるSIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMですが、Apochromat(アポクロマート:APO)の名に恥じない素晴らしい軸上色収差の補正を見せつけてくれましたが、少々画面の周辺部での倍率色収差に苦しさを感じました。

しかしながら、もうひとつの捉え方として、カメラ仕様を再考察すると少し見方も変わります。

まだこの時代のカメラは、撮像素子が「APS-Cサイズ」のカメラが主力であった頃です。

APS-Cサイズのカメラは像高15mmほどまでしか使いませんので、このレンズの非常に高い性能の領域しか使うことがありません。

そのため、多くのユーザーには十二分な性能として受け入れられていたはずです。

当然、SIGMA側もその点を読んで、利便性と性能の最適なバランスを狙った設計を行っている、と推測されます。

後継機種についてはこちらをご覧ください。

 関連記事:SIGMA 60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

作例・サンプルギャラリー

SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMの作例集は準備中です。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM

画角46.8-5.0度
レンズ構成16群22枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.5-1.8m
フィルタ径95mm
全長219mm
最大径104.4mm
重量1970g
発売日2010年4月9日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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