この記事では、シグマのミラーレス一眼カメラ専用の交換レンズである大口径中望遠レンズ 85mm F1.4 DG DNの歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなた人生のパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
SIGMA 85mm F1.4 DG DNは、高性能で有名なArtシリーズの中でもフルサイズミラーレス専用として開発された大口径中望遠単焦点レンズです。
まずは、一般常識であると思いますが、SIGMAの製品名称の定義についておさらいしてみましょう。
SIGMAのレンズは、基本シリーズとして3つに分かれています。
- Art (高性能)
- Contemporary (バランス型)
- Sports (高機動)
(カッコ)内の説明については、公式HPに記載された説明を一言で意訳しました。
そして、名称の末尾の記号(例:85mm F1.4 "DG DN")などについては以下になります。
- DG (フルサイズ用)
- DC (APS/フォーサーズ用)
- HSM (超音波モーター)
- DN (ミラーレス専用)
当記事で紹介する製品は、Artシリーズ 85mm F1.4 ”DG DN”ですから、「フルサイズ」&「ミラーレス専用」となります。
旧来までのミラー有一眼レフ用として設計された製品なら、マウントアダプタを利用して各社ミラーレス一眼へレンズを流用できましたが、「この製品はミラーレス専用」となりますので注意が必要です。
また、これまでのSIGMAは、各社のレンズマウントに合わせた製品を販売していますが、執筆現在(2021年)におけるDNシリーズはソニーEマウントと、SIGMAやPANASONICやLEICAの共同運営するLマウントにのみに対応しています。
さて、Artシリーズの85mm F1.4仕様のレンズは、2016年に発売されたミラー有一眼レフ用の初代のレンズがあり、当記事で紹介するミラーレス用のレンズは二代目となります。
混同を避けるため下表に整理しておきました。
- 初代:85mm F1.4 DG HSM (2016) ミラー有一眼レフ用
- 二代目:85mm F1.4 DG DN (2020) ミラーレス一眼用
過去には、初代85mm を分析しておりますので以下のリンク先からご参照いただきたいと思います。
関連記事:SIGMA Art 85mm F1.4 DG HSM (初代)
私的回顧録
今回、このSIGMAのレンズ分析を急いだのには理由があります。
初代Art85mmは2016年の発売、当記事の二代目Art85mmは2020に発売と、わずか4年でのリニューアルとなりました。
通常、カメラ用レンズの新製品発売サイクルは比較的短いものでも10年、長い物では30年ほどかかる物も普通にあります。
このSIGMA Art85mmは、ミラーレスカメラ用とは言え、わずか4年でリニューアルするのですから「禁忌級の発見をしたのではないか?」と勘繰りまして、早速の分析が急務であると判断したわけです。
また、一般的に考えれば広角レンズほどミレーレスカメラによる小型化や高性能化の恩恵を受けやすく、85mmのような中望遠レンズではどれほど効果があるのか疑問です。
しかし、リニューアルするほどの多大な効果があるとは考えづらい中望遠レンズのリニューアルを急いだのですから、間違いなく劇的進化を遂げたに違いないのでしょう。
過去には、ミラーレス化で広角ズームレンズが劇的に進化したニコンの事例をご紹介しました。
関連記事:新旧比較 NIKKOR 14-24mm
こちらの記事あたりを参考にしつつ、早速ですが二代目Art 85mm F1.4を分析してみましょう。
文献調査
今回は定期調査時に新規文献として登録されている特開2021-85935が二代目85mm F1.4と察知しました。形状が公式サイトの構成図と良く似る実施例7を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
恥ずかしい話ですが、マンションの壁をカビさせたことがありますが、防湿庫のカメラは無事でした。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSIGMA 85mm F1.4 DG DNの光路図になります。
レンズの構成は11群15枚、最も撮像素子側のレンズに像面湾曲と球面収差の補正に効果的な非球面レンズを1枚、色収差の補正に効果的な特殊低分散材料(SLDガラス)を5枚(第2,3,4,6,9レンズ)も導入しています。
全体の配置を眺めますと、初代85mm F1.4レンズはガウスレンズが二つ連なったような構成でしたが、当記事の二代目85mmでは構成枚数の増えた1つのガウスレンズ的な構成となり、対称型配置の構成に近づいたように見えます。
中望遠レンズと言えど、ミラーレス化で空いた撮像素子側スペースを有効活用すると、収差補正の容易な対称型配置に近づき、小型化や高性能化を実現しやすいと言うことなのでしょう。
それでは、このレンズの光学性能をさらに詳しく分析して参りましょう。