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【深層解説】タムロン大口径望遠ズーム TAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVD ( NIKON Z 70-180mm F2.8 ) -分析127

タムロンの大口径望遠ズーム TAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVDの性能分析・レビュー記事です。

なお、この製品はNIKON Z 70-180mm F2.8とも同一の光学系のようです。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

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レンズの概要

まず、TAMRONのレンズ名による仕様の見分け方を整理してみましょう。執筆現在(2023年)の時点で販売されている製品は、この3つのいずれかの名称が付いています。

Di IIIは、ミラーレス一眼カメラ用ですが、APS-Cサイズセンサ用とフルサイズセンサ用が混在していますので注意が必要です。

ご存じの通り、執筆現在(2023年)のフルサイズカメラはすっかりミラーレス一眼カメラが主流となったことから、TAMRONからも続々とフルサイズ用のDi IIIレンズが発売されています。

執筆現在の主なTAMRONのDi IIIタイプのズームレンズを発売日と供に一覧にしました。

  • 17-28mm F2.8 Di III RXD(A046) 2019
  • 20-40mm F2.8 Di III VXD (A062) 2022
  • 28-75mm F2.8 Di III VXD G2 (A063) 2021
  • 28-200mm F2.8-5.6 Di III RXD(A071) 2020
  • 35-150mm F2-2.8 Di III VXD (A058) 2021
  • 50-400mm F4.5-6.3 Di III VC VXD (A067) 2022
  • 70-180mm F2.8 Di III VXD (A056) 2020当記事
  • 70-300mm F4.5-6.3 Di III RXD (A047) 2020
  • 150-500mm F5-6.7 Di III VC VXD (A057) 2021

2018年以降、怒涛のごとき勢いでDi IIIタイプのレンズが発売されており、当ブログも過去にフルサイズ用の超大口径標準ズーム35-150mm F2-2.8 Di IIIを分析しました。

 関連記事:35-150mm F2-2.8 Di III

今回は、フルサイズ用の大口径望遠ズーム70-180mm F2.8 Di IIIを分析いたします。

広角端から望遠端までFnoがF2.8一定のレンズは、俗に大三元レンズなどと呼ばれ、標準ズーム、広角ズーム、望遠ズームの3本のF2.8レンズをそろえることがプロフォトグラファーの第一歩のように言われていました。

近年はデジタルカメラの進歩により、高ISO感度でも十分な画質が得られるため少し大三元レンズの立ち位置は変わり、大口径ズーム特有の描写性能に重きが置かれているようになったと思います。

フィルム時代のF2.8の大口径ズームは、描写に甘さの残る性能でしたが、ミラーレス時代に突入するころからは単焦点に劣るどころか勝る性能のレンズも多くなりました。

さて、このTAMRON 70-180mm F2.8はいかなる性能か、分析して参りましょう。

文献調査

各社、特許の出願の方針は様々で、気が向いた時にだけ出す会社もあれば、思いついた物を片っ端から出す会社もあります。

TAMRONは、製品に直結するような出し方はせず、抽象的な書き方をしたりすることが多いようです。

ところが、稀に製品とだいぶ一致する出願をすることもあり、特開2021-43375実施1はまさに70-180mm F2.8に近似することがわかりました。

これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

なお、このレンズはNIKON Z 70-180mm F2.8とも同じ構成です。

メーカー側は公式には何も公表しませんが、見た目が同じレンズですから、これはTAMRONが受託生産していると推測されます。

いわゆるOEM生産ですね。あくまで私の推測ですからご注意ください。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

上図がTAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVDの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は14群19枚、第8/17/7/19レンズは球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズ(aspherical)であり、第3/5/9/10/13レンズには色収差の補正に好適な異常低分散(LD)ガラスを採用し、さらに第2レンズには蛍石にも匹敵する色収差補正効果を持つ特殊異常低分散(XLD)を採用しているようです。

もはやレンズの大半が特殊レンズといった風情です。

続いて、ズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは6ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端から望遠端へズームさせると被写体側へ飛び出す方式です。

第1ユニット全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、これを凸(正)群先行型と表現します。

この凸(正)群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸(正)群先行型と見て間違いありません。

凸レンズ群が被写体側にある構成をテレフォトタイプ(望遠型)とも言い、凸レンズ群の収斂作用で大きくなりがちな望遠レンズを小型にする効果を発揮します。

第1ユニットが飛び出すタイプは、広角端の状態にすると全長をとても小さくできるので、高い携帯性を求めるユーザーに人気です。

大口径望遠ズームは、スポーツや報道などの現場でも使われることが多いためか、第1ユニットを固定式にすることが多いので少し珍しいタイプと言えます。

第2ユニット、第5ユニットが望遠端になるにつれて撮像素子側へ移動し、第4ユニットは広角端と望遠端では動いていないように見えますが、ズームの中間位置で撮像素子側に弧を描くように移動します。

さらに第4ユニットと第5ユニットは、それぞれがピントを合わせるためのフォーカシングユニットとなっており、ズームとは別に独立して前後に稼働できる構造です。

このように2つのフォーカシングユニットを独立して制御する方式をフローティングフォーカスと呼び、これは被写体までの距離が変わっても高い描写性能を維持する事が可能な方式です。

製品の名称末尾にある「VXD」はリニアモーターフォーカス機構(Voice-coil eXtreme-torque Drive)の略で、静粛性・俊敏性に優れているレンズであることを示しています。

ただでさえ多くの特殊レンズを採用しながら、移動ユニットの構成もなかなかに複雑で、フォーカスユニットも2基備えており、これは税の極みのような構成ですね。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄色)を見ると広角端も望遠端もほぼ直線の鋭い切れ味の特性ですが、あれだけ非球面レンズを採用しているのですからそうでなければ困ると言うものです。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、望遠端に至っては「ほぼゼロ」といった様子で何かもう信じられない物を見ている気がします。

広角端はわずかに補正残りがありますが、一般的には十分に補正されていると言える範囲です。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、基準光線であるd線(黄色)を見るとグラフの上端側の画面周辺に至るまで均質に補正されているようです。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、左側の広角端側はわずかにマイナスに倒れ実写すると樽型になります。右側の望遠端を見ると一般的なズームレンズよりも大きくプラス側に倒れ強い糸巻き型に映ります。

歪曲収差は画像処理によって補正が容易なため、望遠端は画像処理を前提としたのでしょう。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、極端に小さいレベルではありませんが画像処理に頼る必要が無い程度に十分な補正が施されています。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、広角端も望遠端も画面周辺の像高18mmを越えるとわずかにコマ収差(非対称性)がありますが、撮影で気になるレベルではなさそうです。

右列サジタル方向は、特に望遠側は全域でフレア(傾き)が少ないようです。

新発売

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

左側の広角端はグラフ上部の画面中心側は極めて鋭く補正されています。画面周辺の像高18mmを越えるとコマ収差の影響でわずかにスポットが広がるものの、大口径ズームとは思えない驚異的なまとまりです。

望遠端に至っては良すぎて言うことがありませんね。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

近年のレンズは倍率色収差を画像処理に任せる例が多く、スポットで見ると色ごとに分離することが多いのですが、このレンズは適度には補正されているので分離が目立ちません。

画像処理で色を補正すると色のにじみは良化するものの、デジタル化時に失われた解像度が改善するわけではないので、光学的な収差補正とバランスが重要です。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離70mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離180mm

開放絞りF2.8

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると極めて高く天井に到達しそうな域に達しています。

さらにこれが画面の中間部の像高12mmあたりまで高い性能を維持する驚異的な性能です。

さすがに画面周辺の像高18mmを越えると低下するものの画面のほんの隅の話です。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

画面中心部の性能はほとんど変わりませんが、そもそも性能が高すぎて絞っても変わりようが無いのです。

絞り開放で見られた画面周辺の像高18mmを越えた領域の低下は少し改善するようですね。

総評?

TAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVDについて正直に告白しますと、初見で私が予想したのは「望遠端焦点距離が180mmと少し控えめな仕様としているため、性能も控えめか?」と思ってしまったのです。

この初見の予測は完全に間違っており、中身を見れば多くの特殊レンズを採用しながら、移動ユニットの構成も複雑で、大口径望遠ズームレンズの収差量とは思えない高次元の補正が施されたレンズでした。

また、望遠端の焦点距離を180mmとしていることで、重量やサイズも扱いやすい範囲に収めており、まったく隙の無い製品に仕上がっているようです。

各種売り上げランキングで上位に君臨するのも納得の1本です。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

作例・サンプルギャラリー

TAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVDの作例集は準備中です。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 TAMRON 70-180mm F2.8 Di III XVD

画角34.21-13.42度
レンズ構成14群19枚
最小絞りF22
最短撮影距離AF0.85m , MF0.2W-0.85T
フィルタ径67mm
全長149mm
最大径81mm
重量810g
発売日2020年5月14日

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以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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