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【深層解説】 富士フィルム大口径標準レンズ FujiFilm Fujinon XF35mm F1.4-分析047

富士フィルム フジノン XF35mm F1.4の性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

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レンズの概要

XF35mm F1.4は、FujiFilm Xシリーズカメラ用標準レンズとしてシリーズ開始と同時に発売されたレンズです。(2012年発売)

Xシリーズは撮像素子がAPSサイズですから、フルサイズ換算の焦点距離は53mm相当となり、Fnoは1.4なのでいわゆる標準レンズとなります。

APSサイズミラーレス用の大口径標準レンズですが、標準と言いながらも意外に他社には少ない仕様と思います。例えばSONYは、E 35mm F1.8 でFnoが少々暗くF1.4仕様のレンズはありません。

多そうで少ないミラーレス用の標準大口径レンズ、これはなかなか興味深い分析テーマとなるレンズです。

なお前回の記事では、当ブログで初めてAPS用レンズの分析として大口径中望遠XF56mm F1.2を取り上げました。詳細は以下のリンク先をご覧ください。

 関連記事:FujiFilm XF56mm F1.2

これに続きAPSレンズ分析の第二弾をやりたくなりましたが、どのレンズを分析しようか…と思い悩みまして、Twitterでアンケートを取ってみましたところ以下の結果となりました。

流石は標準レンズ、大人気…と言うことで、今回の分析テーマが決定いたしました。

ちなみに私のTwitterアカウントはこちらです。

 関連記事:高山仁Twitterアカウント

私的回顧録

今回、APS用レンズの分析第二弾を記念して「APSフィルム」とは何だったのか、少々思い出してみたいと思います。

APSフィルムとは1996年にフィルムメーカー・カメラメーカーが結託し、誕生しました。規格策定の背後には各社の思惑が絡んだドロドロとしたドラマがありそうです…

発売当時の私はすでに立派なカメヲタであり、レンズ沼に膝あたりまで漬かっていたので、このAPSフィルム規格は「失敗する」と予想していました。

第一の理由として、APSフィルムは135フィルム(フルサイズ)に対して一回り小さいので画質の低下は避けられません。高画質を求める層はAPSフィルムを購入しないと言う理由です。

2000万画素を超えるデジカメが一般的となった現代では理解しづらいかもしれませんので解像度の問題を少し補足します。

現代のデジカメではAPSサイズでもフルサイズでも実用上の解像度の差はありません。撮像素子(CMOS)が進化し画素数が増えすぎて実用的な範疇での差が無くなったのです。

では逆にフィルムの方をデジカメの画素数に換算して考えてみます。

フィルムの解像度をデジカメ風に表現するのは難しいのですが、フルサイズのISO100フィルムを体感的に換算すると800万画素程度ですから、面積の小さいAPSは約66%に縮み500万画素程度となります。

ISO400フィルムとなればさらに解像度が下がりますから、APSフィルムの解像度とは少々もの寂しい画素数になってしまうことが感覚的におわかりいただけだけるでしょう。

第二の理由は、デジタルカメラの台頭が予想できた時代でもありました。

APSフィルム誕生前の1994年には商業的に初めて成功した民生用デジタルカメラ「CASIO QV-10」が発売されていますからデジカメの時代が幕を開けていたのです。

今後デジカメ時代が到来することを予見できた時期に始まったのですから終わりが早いことが予想できました。

しかし、私の予想に反してコンパクトカメラ用としてはそれなりにヒットしました。

ただしそれも束の間、息をできたのは2002年ごろまでだったでしょうか。デジタルカメラの画素数が200万画素を超え始めたあたりで逆転しAPSは没落していきます。

そんな中で誰が思いついたのか、デジタル一眼用のセンサーサイズをAPSフィルムに例えて表現する文化が誕生し、結果的に現在ではAPSサイズと言う謎の表現だけが世に残る状況となりました。

2005年頃には一眼デジカメも庶民的価格になりつつあったので、実質的には10年ほど規格が維持されたAPSフィルムは成功だったのか?失敗だったのか?判断は難しいところです。

2012年、APSフィルムは販売をそっと終了したそうです。

文献調査

特許文献自体はWO2013/088701だとわかっておりましたが、見た目の近い実施例1はデータの再現性が悪く、断面形状の見た目はわずかに異なりますが実施例2の方を今回は採用しようかと思います。

詳細な理由は割愛いたしますが、私が使用している解析ソフトOpTalixとFujiFilmの設計データの相性が悪いためです。

では、実施例2を設計値として以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がFujiFilm XF35 F1.4の光路図になります。

6群8枚、非球面レンズを1枚採用しています。

被写体側の第1レンズから第3レンズはいかにもなガウスレンズの風情を残していますが、第4レンズ以降は独特な配置をしています。

撮像素子側には3枚のレンズを貼り合わせています。近年では3枚を貼るレンズは少なくなりましたね。

昔、1970年代ぐらいまではコーティング技術が未発達だったため無理にでもレンズを貼り合わせるタイプで設計をしていました。

コーティングの無い時代はレンズ同士を貼り合わせ空気接触面の数を減らし、レンズ面での乱反射を防ぐことが設計上重要だったのです。

この理由は、レンズと空気の接触面では反射が起こりフィルムへ到達する光量が減り実質的なFnoが暗くなってしまうためです。

乱反射した光によるフレアによって起こる画質低下を抑制する目的もありました。

ちなみにコーティングをかけるとレンズ面での乱反射は激減します。(1/10程度になる)

よって、現代ではコーティング技術が発達したので、3枚を貼り合わせる加工は極めて収差補正効果の高い場合にしか採用されませんので、逆に珍しくなってきています。

さて、近年の50mm F1.4レンズは、SIGMAに代表される超解像タイプが台頭しておりますが、このFujiFilm XF35mmは対称型配置の利点を生かしつつ製品サイズとの適正化を狙ったように見えます。

FujiFilmの標準レンズとしてどのようなバランスを狙ったのかは各収差分析の項で詳しく見てみましょう。

この他、APSサイズ用のレンズ分析条件などについてまとめた記事も作成しましたので合わせてご覧いただけると理解が深まるかと思います。

 関連記事:センサーサイズとレンズサイズ

縦収差

球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差グラフの根本あたりに少々不気味なうねりがあるものの、絶対値はとても小さく収められています。

球面収差を見ると、伝統的で小型な対称型ガウスタイプのレンズと比較すると半分程度に収まっているでしょうか。一方で現代的な大型高性能レンズの代表SIGMA 50mm F1.4と比較しますと、そこまで至らないようです。

伝統的な柔らかいガウスの描写と、高解像度化の中間あたりを狙った様子が伺えます。Xカメラシステムの標準レンズとしてレンズ全体のサイズを抑えることも重視したのでしょう。

過去に当ブログでは典型的なガウスタイプの分析としてNIKON 50mm F1.4Dを、また近年の高性能タイプとしてSIGMA 50mm F1.4を分析していますので以下のリンク先を参考にご覧ください。

 関連記事:NIKON 50mm F1.4D

 関連記事:SIGMA Art 50mm F1.4

像面湾曲

像面湾曲も同様に伝統的ダブルガウスに比較すれば、十分に補正されているようです。

歪曲収差

一般的なガウスタイプの歪曲収差はマイナス2%程度の補正残りがありますが、このレンズはほとんどゼロレベルに補正しています。

一般的なガウスタイプが歪曲をゼロにできないのはミラーを配置するスペースを確保するためにバックフォーカスを長くしなければならないと言う制約が原因です。

このXF35mmは、ミラーレス用のレンズなのでバックフォーカスを無理に伸ばす必要が無い分、歪曲収差補正の自由度が高まったのでゼロレベルに補正できるのでしょう。

倍率色収差

倍率色収差は異常なレベルではありませんが、構成枚数の割には若干大きめです。倍率色収差は画像処理でも補正できる収差なのでそちらで抑える思想なのかもしれません。

横収差

左タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

一般的なガウスタイプよりは収差はだいぶ削減されているものの、開放Fnoではコマ収差などが残りほんのり味を残した設計となっていることがうかがえます。

新発売

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.2(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

伝統的なガウスタイプに比較すると適度に補正されていますが、SIGMAのArtシリーズのような過剰感もなく、好印象です。

スポットスケール±0.07(詳細)

MTF

開放絞りF1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

現代的なレンズで非球面レンズなども採用されていますので、伝統的なガウスレンズと比較すれば周辺でも十分に山が高いことがわかります。

流石にSIGMAなどの巨砲タイプと比較すると不利ではありますが、標準レンズとして製品サイズも勘案することも重要でしょう。

小絞りF4.0

開放Fnoでは若干甘さの残る性能でしたが、F4.0へ絞ればギリギリと解像度が上がる様子を確認できるでしょう。

収差をコントロールする楽しさを味わうこともできるレンズです。

総評

FujiFilm Xシリーズの標準レンズとしてどのような設計方針なのか興味深い製品でしたが、サイズと性能を中間的なところでバランスさせることで、APSサイズを生かした製品に仕上げていることが良くわかりました。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

このレンズに最適なカメラをご紹介します。

作例・サンプルギャラリー

Fujinon XF35mm F1.4の作例集は準備中です

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製品仕様表

製品仕様一覧表 FujiFilm Fujinon XF35mm F1.4

画角44.2度
レンズ構成6群8枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.28m
フィルタ径52mm
全長50.4mm
最大径65mm
重量187g
発売日2012年2月18日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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