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【深層解説】ニコン大口径標準ズーム NIKON AF-S Nikkor 24-70mm F2.8G ED -分析073

ニコン ニッコール AF-S 24-70mm F2.8G EDの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

新刊

レンズの概要

当記事で紹介するNikkor 24-70mm F2.8Gは、FnoがF2.8の大口径標準ズームの3代目として発売されたレンズです。

NIKONのF2.8標準ズームレンズについて、前回の記事では先代となる28-70mm F2.8をご紹介しました。

 関連記事:AiAF Zoom-Nikkor 28-70mm F2.8

まずは、NIKONにおけるF2.8標準ズームレンズの系譜を確認してみましょう。

 ※光学系を流用している製品は除きます。

今回紹介する3代目F2.8標準は、焦点距離域が「28-70mm」からついに「24-70mm」へ、より広角側へ拡張されました。

皆様ご存じの通り、広角側を24mmとするズームは、現代(2021現在)では標準ズームの王道の仕様とされておりますが、NIKONではこのレンズから実現されたわけです。

また、本レンズの発売された時代、一眼レフカメラでは革新的な出来事がありました。

それは、フルサイズデジタル一眼レフの普及開始です。

本レンズ発売と同年の2007年、NIKON初の一般向けフルサイズデジタル一眼「NIKON D3」が発売されました。

言わば本レンズは、庶民向けフルサイズデジタル元年を祝うための標準ズームであったと言えるでしょう。

私的回顧録

『第002話 選択』

 関連記事:前回のお話「第001話」はこの記事にあります。

職に迷いカメラメーカーの求人情報を見つけ、受験を決意した高山仁。

知っているカメラメーカーを片っ端から受験する決意は固めた。

「カメラメーカーの求人はいったい何社あるんだ?」と掲示板の求人表を見渡す。

  「フムフム、九日光学、ギリシャ、目木光学、三乃ル夕…」

数社は知った名前があるが、なにぶん田舎の貧乏学生だから機材に詳しい訳も無く、メーカーの良し悪しがわからない…

高山のカメラ知識は、大学図書室にある雑誌「夕日カメラ」と、古本屋で購入した数年前の「世界カメラ年鑑」の知識だけ。

インターネットの無い時代の田舎の学生などそんなレベルだ。

「知っている順に受けるしかないな…」

最近、欲しいカメラならGM-4だ、ならば「ギリシャ」を受験するか?

いや、ここはやはり今使っている「目木光学」から受験すべきかだろうか?

当時の高山は、叔父より譲られた目木光学の少し古い製品である「MEKON M1」を愛用していた。

しかし「愛用のカメラの会社だから受験した」と面接で言うのも気恥ずかしいな、と思いつつ

履歴書を買いに生協へ向かうのであった。

つづく…

 ※本文はフィクションとして実在の人物や団体とは一切の関係が無いように配慮し記載しております。

文献調査

特許文献を調査しますと特開2007-93976が関連文献であることがわかりました。形状と性能的には実施例3がふさわしいかと思いましたが、再現してみるとどうも転記ミスか落丁なのか再現できませんでしたので、次に性能が気に入った実施例2を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON AF-S Nikkor 24-70mm F2.8G EDの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

レンズの構成は11群15枚、第1/第4/第13レンズは像面湾曲や球面収差に効果的な非球面レンズを採用し、色収差の補正に好適なEDガラスも3枚採用しているようです。

先代となる2代目標準ズームの28-70mm F2.8と構成枚数は同じ15枚ですが、非球面レンズの枚数は先代の1枚から3枚へ大きく増加しています。

非球面レンズの増加により、広角端の焦点距離を24mmへ拡張を果たしながら、性能の改善も図っていることが伺えます。

続いてズーム構成については以下になります。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、広角端では物体側へ飛び出していますが、望遠端へズームさせると撮像素子側へ移動しますからレンズ鏡筒としては引っ込むようになります。

第1ユニット全体として凹(負)の焦点距離(拡散レンズ)の構成となっていますが、これを凹(負)群先行型と表現します。

この凹(負)群先行型は、一眼レフの標準ズームレンズや広角ズームレンズに多い構成です。

第2ユニットから第4ユニットは、広角端から望遠端へズームのさいに各々が被写体側へ移動しています。

第5ユニットはズーム時では不動となっているようです。

先代の28-70mm F2.8では4つのユニットで構成されておりましたが、さらに1つユニットを増やし複雑な移動構成となっており、仕様の向上分を補助していることを伺えます。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、広角端は申し分無いレベルに補正されています。一方の望遠端はわずかにうねりが残り、若干柔らかな解像かもしれませんが、ボケ味が良さそうでポートレートを重視しているのかもしれません。

軸上色収差は、先代の28-70mm F2.8では望遠端のg線(青)の軸上色収差は小さかったものの、プラス側に大きく倒れており、いわゆる色のフレア成分が気になりましたが、本レンズでは大きく改善したことがわかります。

像面湾曲

一般的に広角レンズほど像面湾曲の補正が難しいものですが、先代の28-70mm F2.8からさらに広角化している本レンズでは、驚くことに先代のより小さく補正しており、非球面レンズ3枚の効果を感じずにはいられません。

歪曲収差

歪曲収差も同様に広角レンズほど補正が難しいにも関わらず、先代と同程度に抑えています。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

倍率色収差は先代でも広角端で苦しく、画面隅となるグラフの上端でのg線(青)がきついカーブを描き補正残りが強くありましたが、本レンズではだいぶ改善している事がわかります。

なお、現代のデジタル一眼カメラでは、倍率色収差はカメラ内の画像処理で補正することが可能です。

本レンズはデジタル用レンズとして開発された初のF2.8標準ズームですから、すでにその機能を見越し必要以上には補正しなかったのかもしれません。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

縦収差の改善度は劇的とまではいかない様子でしたが、横収差で見ますとタンジェンシャル方向のコマ収差が半減程度まで改善しており画面全域での画質改善が伺え、地道な改善を重ねている様子を感じます。

新発売

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

横収差の締まり具合からもわかります通り、先代の28-70mm F2.8に比較するとスポットダイアグラムの散らばりは感覚的には半分ほどになったように見えます。

デジタル時代は拡大表示が容易となったことで画質評価が一段と厳しくなりましたが、王道レンズにふさわしい高画質を実現しています。

スポットスケール±0.1(詳細)

こちらの図は、さらにスケールを拡大し詳細に性能を確認できるようにしております。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離24mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離70mmの状態

開放絞りF2.8

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

広角端は、画面中心から中間の像高12mmあたりまでが特に向上したようです。

望遠端は、画面隅の像高21mmまでMTFの山の高さ差が低減し、画面全域で均質な高画質を実現したようです。

小絞りF4.0

こちらは絞りをF4.0まで絞った状態でのMTFです。

総評

デジタル時代初のF2.8標準ズームとして登場したAF-S Nikkor 24-70mm F2.8は、画面全域にわたり高解像化を狙ったようで、評価の厳しいデジタル化に対抗しようとした跡を感じます。

さて、「35-70mm」→「28-70mm」→「24-70mm」と、現代でも定番の仕様にまで発展したNIKONの標準ズームはまだ進化を続けます。

次回も標準ズームの分析は続きますので、是非お楽しみにお待ちください。

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

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作例・サンプルギャラリー

NIKON AF-S Nikkor 24-70mm F2.8G EDの作例集は準備中です。

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製品仕様表

製品仕様一覧表NIKON AF-S Nikkor 24-70mm F2.8G ED

画角84-34.2度
レンズ構成11群15枚
最小絞りF22
最短撮影距離0.38m
フィルタ径77mm
全長133mm
最大径83mm
重量900g
発売日2007年11月30日

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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