パナソニックのフルサイズ ミラーレス一眼カメラ用の大口径標準レンズ ルミックス S 50mm F1.8の性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
新刊
レンズの概要
Panasonic LUMIX S PRO 50mm F1.4は、2018年に発足したLマウントアライアンスの規格に準拠するフルサイズミラーレス一眼カメラ用の大口径標準レンズです。
Lマウントとは、Panasonic 、Leica、SIGMAが主体のミラーレスカメラの協業規格で、各社のカメラとレンズの互換性が保証されているため自在に組み合わせて使用することができます。
実際に商品が発売開始された2019年3月より、Panasonicはカメラとともに3本のレンズを準備しました。
- LUMIX S PRO 50mm F1.4
- LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.
- LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.
初陣を飾った3本レンズは、近年のフルサイズ用としては王道のレンズ仕様ですね。
その後、レンズの拡張はさらに続き、10本目のレンズとして2021年6月に発売されたのが当記事のLUMIX S 50mm F1.8となります。
Panasonic初のフルサイズカメラシステムの拡販を狙い、とても安価な設定で登場した小型な大口径標準レンズです。
私的回顧録
『PanasonicとPandemic』
Lマウントアライアンスが発足し、PanasonicやSIGMAから対応製品が出そろい始めた2020年、この頃に始まったのがコロナウィルスによるPandemic(パンデミック)です。
その以前の2018年には一眼レフカメラ市場の縮小が明確になっており、少々薄暗いムードの中に始まったLマウントアライアンスですが、追い打ちをかけるようにコロナウィルスによるカメラ市場の劇的な縮小が始まりました。
コロナウィルス感染防止のため世界的な外出制限がかかり、カメラを買うような人がいなくなってしまったのです。
なにしろ、カメラの購入動機で上位を占める旅行が禁止され、運動会や入園・入学式などのイベントも自粛が続いたわけですから、カメラの売れる隙などなかったわけです。
また、各社ともにカメラのミラーレス化への転換が明確になったものの、消費者はどこの会社のシステムにすべきか様子をうかがう状況で、様子見の買い渋りもあったものと思います。
2重苦3重苦、苦しい始まりのLマウントアライアンスの船出でした。
他にもこの2020年からのコロナPandemicでは、カメラ雑誌がいくつも休刊に追い込まれたり、オリンパスからはカメラ部門が別会社へ分割されたりと業界内でも様々な事件が起こりました。
さて2023年春、ついに実質的なコロナウィルス対応の終了宣言ともなる5類引き下げも決定し、ようやくPandemicの終焉も見えてきました。
これと同時期にPanasonicが発売した新型カメラLUMIX S 5IIは2023年2月のマップカメラランキングで1位を獲得する猛進ぶりで、今後の活躍が大いに期待されそうですね。
文献調査
特開2022-182997を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がPANASONIC LUMIX S 50mm F1.8の光路図になります。
一般的に一眼レフカメラの標準レンズ50mm F1.8仕様のレンズはダブルガウス型であることがほとんどですが、独創的な構成をしていることが一目でわかります。
当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。
実に美しい構成図が描かれています。
レンズの構成は8群9枚、球面収差や像面湾曲に効果的な非球面レンズ(aspherical)を第6/7/8レンズに採用し、色収差の補正に好適な特殊低分散ガラス(ED)を第5レンズへ、第1レンズには小型化に適した超高屈折率ガラスレンズUHR(Ultra High Refractive Index)を採用しているようです。
このレンズより前に発売されたLUMIX 50mm F1.4と同じ設計思想なのでしょう、第1レンズが強い凸レンズで始まり、ミラーレス化によりスペースにゆとりのある撮像素子手前に大きな凹レンズを配置しています。
古き良き時代のダブルガウス型レンズの代表例については、こちらのNIKON NIKKOR 50mm F1.8Dをご参照ください。
縦収差
球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、基準光線d線(黄色)をみると極小に補正されており、F1.8の口径でありながらも3枚もの非球面レンズを贅沢に採用した効果を感じます。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差もF1.8の大口径仕様を感じさせない適切な補正がなされています。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲はほとんど直性的な特性で収差を感じさせません。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は少々独特にクセのあるカーブを描いていますが、グラフ上端である画面隅でも1%程度の数値で、十分小さいと言える範囲内です。
倍率色収差
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は画像処理に頼るレンズも昨今は増えていますが、まったく不要と言えるほどに綺麗に補正されているようです。
横収差
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。
全体に非球面レンズの強烈な効果により補正していることがわかる微妙なうねりがあるものの、左列タンジェンシャル方向は、コマ収差(非対称性)が少なく画面周辺まで高い解像度が期待できます。
右列サジタル方向も同様に古き良き時代の標準レンズとは比較にならないほどの見事な補正を行っていますね。
新発売
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
標準スケールでは十分小さくスポットがまとまっており、異形感も少なくまるみを維持していますね。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
拡大すると画面の周辺部の像高18mmを越えると、基準光線d線(黄色)は程よいまとまりのもののC線(赤)では形状の崩れが大きいようです。
気になるようでしたら、夜景などでは半段程度絞ることもご検討ください。
MTF
開放絞りF1.8
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると0.8を越えますから十分高いレベルで、画面周辺の山の位置も枠内に収まり画面内のバランスも上々と言ったところです。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
開放の状態が十分に高いため、絞り込むと極めて高い解像度が期待できそうです。
総評
Panasonic LUMIX S 50mm F1.8は、近年の製品ではなかなかに安価で良心的な価格ですが、3枚もの非球面レンズに異常分散ガラスも搭載した現代的で極めて性能の高いレンズであることがわかりました。
カメラのバリエーションも揃い、システムの完成度も高まりつつあるPanasonicのミラーレス一眼カメラですが、レンズも魅力的な製品が増えてきています。
他者とは違う個性的なシステム構築を目指す方は、ぜひご一考されてはいかがでしょうか?
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
こちらのレンズに最適なカメラをご紹介いたします。
作例・サンプルギャラリー
Panasonic LUMIX S 50mm F1.8の作例集は準備中です。
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製品仕様表
製品仕様一覧表 Panasonic LUMIX S 50mm F1.8
画角 | 47度 |
レンズ構成 | 8群9枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | 0.45m |
フィルタ径 | 67mm |
全長 | 82mm |
最大径 | 73.6mm |
重量 | 300g |
発売日 | 2021年6月25日 |