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【深層解説】 元祖デジタルカメラ CASIO QV-10 -分析096

カシオのコンパクトカメラQV-10用レンズの性能分析・レビュー記事です。

現代的なデジタルカメラの基本的なスタイルを完成させ、商業的にも大ヒットとなったカメラ史に残る伝説の名機の光学系を分析検証いたします。

レンズの概要

CASIO QV-10は、従来のカメラには必需品であった光学ファインダーを廃し、代わりにライブビューモニタ(背面液晶)を備え、撮影データをメモリーに保存する、現代的なデジタルカメラの基礎的スタイルを完成させた伝説的なカメラです。

この技術的な功績が称えられ、国立科学博物館より第5回重要科学技術史資料「未来技術遺産」として第00113号として登録されています。

当記事ではCASIO QV-10のレンズ構成を分析します。

まずは簡単にQVシリーズの歴史を簡単に紹介します。

QVシリーズの始祖、初代QV10は、1994年11月14日に発表、1995年3月10日に発売となりました。

続いて、カラーの変更された派生モデルや、1997年2月10日にはより低価格化されたQV-11が発売されるなど、デジタルカメラ初のヒット商品となります。

1996年8月24日には高画素化されたQV-100が発売されるなど後継機の発売も続きました。

その後、カシオのデジタルカメラブランドがエクシリム(EXILIM)シリーズへ転換する2002年まで、QVシリーズはカシオの主力製品として展開されていました。

なお、単純に初の国産デジタルカメラと言えば、富士フィルム FUJIX DS-200Fの方が早いとも言えますし、電子撮像素子によるデジタルカメラの基本的な仕組み開発したのはコダックとも言われ、元祖デジタルカメラメーカーは諸説あります。

現代的な基本スタイルである、背面液晶の採用や回転するレンズユニット、パソコンとの連携などを実現し、その後のデジタルカメラの潮流を決しながら、かつ商業的な成功も収めたとの意味で、デジタルカメラの歴史に偉大な足跡を残したのがCASIO QV-10となります。

私的回顧録

1995年から発売されているCASIO QV-10ですが、当時からすでに立派なカメヲタであった私の視点からすると画質的にはフィルムにかなり劣りますし、どうデータを保存するのかが確立されていませんでした。

私自身も当時すでにパソコン(NEC PC98シリーズ)を所有していたものの、当時のパソコンの主たる記録メディアは1枚あたり1.2メガバイト(MB)ほどのフロッピーディスク(FD)です。

QV-10は、2MBの内蔵メモリーに96枚の画像を記録する仕組みですが、撮影の度に2枚ほどフロッピーが必要になります。

当時の私のパソコンに内蔵されたハードディスク(HDD)容量は100MB程度で、だいぶ高価なため写真が増える度に買い増せるような物ではありませんでした。

ちなみに私が初めてのパソコン購入に際、100MBのハードディスク(HDD)のスペックを見て「フロッピー100枚分か!※1」と目を丸くした記憶があります。

 ※1:今ではすごさが伝わらない表現ですね

現在(2022年)、総容量にして100テラバイト(TB)分のHDDを個人で購入するのも可能な時代となりました。

1995年から30年ほどでHDD容量が何倍になったのか?感覚的に理解しづらい桁数差まで発展しています。

私の使い方からすると100TBもあると残りの生涯では使いきれないかもしれません。

1995年当時はハードディスクでの保存も難しく、フロッピーディスクもメディアの故障なども多かったのでとても長期保存できるものではありません。

フィルムカメラの記録媒体であるフィルムもその保存には難儀しますが、1995年はデジタルデータの保存が家庭で手軽にできる時代ではありませんでした。

しかしその後、HDDの容量は年々倍増し、2000年を過ぎるとギガバイト(GB)クラスのHDDが一般化し、インターネットの普及も伴いデジタルカメラの時代が本格化到来となりました。

この現代デジタルカメラの直接的な始祖とも言えるCASIO QV-10の開発秘話は、2000年ごろからNHKが放送していた大ヒット番組「プロジェクトX」でも取り上げられました。

その放送回は、2002年7月2日に放送されたもので、第90回「男たちの復活戦 デジタルカメラに賭ける」になります。

放送当時、この回をリアルタイムで視聴したことを鮮明に記憶しています。

私自身も極めて末端ではありますが、同じ業界内のエンジニアであり、同じ時代を近い処遇で過ごしていたわけで、その苦難と成功の秘話に涙しました。

この感動のストーリーは動画配信サービス以外でも、AMAZONの電子書籍サービスkindleで大変お手頃な価格で感動の開発秘話を書籍版にて手軽に読むことができるようです。

 関連リンク:AMAZON プロジェクトX 書籍版「男たちの復活戦 デジタルカメラに賭ける」

さて、時は進み2021年、プロジェクトXの4Kリストア版の中で、カシオのデジタルカメラの回が4K画質となって再放送されました。

この4Kリストア版、私もおよそ20年ぶりに視聴しましたが2度目ながら再び「涙がこぼれました」

ただし、この2度目の涙は、CASIOにおけるデジタルカメラの現況を知る涙だったのかもしれませんね。

文献調査

1990年から1994年あたりまでのCASIOから出願されたレンズに関する特許をすべて確認しますと、たった1件だけ「小型電子カメラ」に関する文献が存在しています。

この時代に小型電子カメラを意図したCASIOの特許ですから無関係であることは考えづらいと思う方が普通でしょう。

これ以外にはカメラに関する物は存在しませんし、仮に違っていたとしても当時の性能レベルを推し測るには良い文献だと思われます。

ひとつ問題がありまして、この特許文献の実施例情報には像高などの撮像素子サイズのわかるデータがありませんでした。

そこでネットでQV-10の撮像素子サイズを調査すると「1/5インチ型CCD」と記載されています。

しかし、現代ではあまり使われないサイズなのか、1/5インチ型CCDの縦横寸法などのサイズがなかなかわかりませんでした。

色々と調べるうちに、この文献に1/5インチ型のCCDセンサの寸法が記載されていることを発見しました。

この情報を、QV-10の撮像素子サイズとして仮定します。

 関連リンク:1/5インチ型CCDに関する論文

この論文の記載事項によれば、1/5インチ型CCDは横2.9mmx縦2.18mmとあるので対角線長さは3.6mm、像高は1.8mmとなります。

参考に主な撮像素子サイズと対角線長及び像高の関係は以下になります。

名称対角線長さ[mm]像高[mm]
135/フルサイズ43.321.7
APS-C34.517.25
1インチ型168
1/2インチ型84
1/3インチ型63
1/5インチ型3.61.8

これにて条件は整いましたので特開平3-288809に記載された唯一の実施例を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

注記:記事公開後、ある海外サイトの管理者の方から「1/5インチ型の寸法が異なるのではないか」と情報もいただきました。1/5インチ型と言ってもJIS等で定めらているわけではないので各社様々で明確にはわかりません。収差を分析する場合、比例関係が成立しますのでスケール等評価尺度の比率を統一すれば比較は成立しますのでこのままとします。

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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がCASIO QV-10の光路図になります。

レンズの仕様は全画角が49度と記載されているため、フルサイズ換算の焦点距離としては約50mm、FnoはF2.0の仕様となります。

5群5枚構成、非球面レンズなどは採用されていないようです。

絞りの前側の3枚はガウスタイプの凸レンズ凸レンズ凹レンズの並びですが、絞りより撮像素子側は凸レンズ凹レンズの並びなのでむしろ逆構成のようにも見えます。

薄い凹レンズの中心厚みは0.3mmほどとなり現代のスマホカメラのレンズの始祖みたいな形ですね。

過去にはiPhoneのレンズを分析しておりますので参考にご覧ください。

 関連記事:iPhone

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、収差図のスケールはいつもの分析記事に合わせています。

イメージ的にどいう意味か説明すると、もしもこのレンズを比例拡大しフルサイズ用レンズとして使うとどうなるか?それがわかるようなスケール比率になっていると認識していただくとわかりやすいかと思います。

過去にセンサーサイズとレンズサイズや収差の関係を記事にしておりますので、ご参照いただきたいと思います。

 関連記事:センサーサイズとレンズサイズ

さて、球面収差は、若干マイナスに倒れ、先端で戻りが無い形状をしています。

いわゆるフルコレクション型にはなっていませんが、このレンズはF2.0とF8.0の2段階絞りのようなので、絞りの変化によるピント移動など考慮する必要が薄いためかもしれません。

軸上色収差は時代性やレンズの構成枚数を考慮すると十分補正されているレベルです。

似た仕様のレンズとして年代は異なりますが、標準レンズの代表であるダブルガウス型レンズのNIKKOR 50mm F1.8Dなどを参考に見ていただくと設計の考えの違いがわかりやすいかもしれません。

 関連記事:NIKKOR 50mm F1.8D

像面湾曲

像面湾曲は画面の中間部あたりでサジタル方向とタンジェンシャル方向の差が大きくいわゆるアスとなっています。

歪曲収差

歪曲収差は極小さくなっています。一眼レフの標準レンズに使われるガウスタイプは対称型光学系のために歪曲が少なくなる特徴がありますが、こちらも一眼レフなどを意識して小さくまとめたのか、たまたま抑えやすい仕様だったのでしょうか?

倍率色収差

倍率色収差は軸上色収差の補正具合からすると少々大き目ですが、撮像素子の画素数が現代の一眼レフのように高画素ではありません。

QV-10の画像はパソコンに取り込むと横320x縦240ドットでしかないため、1/5インチ型CCDの横幅2.9mmから考えると、横方向の分解能は最小で0.009mmほどになり、この収差量でも極度に目立つことは無さそうです。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は若干コマ収差(非対称性)が強く、MTFの低下が懸念されます。

右列サジタル方向はハロ(傾き)が強いようで、像面湾曲グラフでサジタル方向はマイナスに強く膨らんでいた傾向が表れています。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.024(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

FnoがF2.0と控えめなこともあって、標準スケールでみると比較的小さく収まっています。

スポットスケール±0.08(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

倍率色収差の影響が如実に表れています。画面の中間部の像高1mmあたりから色ごとに像が激しく分離している様子がわかります。

MTF

開放絞りF2.0 空間周波数250本/mm

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

フルサイズレンズと比較するために評価空間周波数を合わせると約250本/mmに相当します。

開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると十分な解像度のありそうな高さです。

画面の中間部の像高1mmほどまでは高さは十分ですが、タンジェンシャル方向のグラフとサジタル方向のグラフのズレが目立ちます。

像面湾曲の補正残りが色濃く影響しているようですね。

開放絞りF2.0 空間周波数55本/mm

先ほどの空間周波数250本/mmでの評価は現代の高画素なフルサイズレンズとの比較としては妥当ですが、当時のCCDセンサーは超低画素なので、250本/mmもの高解像度は必要ありません。

1/5インチ型CCDの仕様と、QV-10の出力画像サイズ(320x240)から考えると、横方向では評価空間周波数約55本/mm程度の解像度で十分と言うか、それ以上に細かいものは画像にできないはずです。

そのため撮像素子(CCD)から考えた限界周波数55本/mmでの評価計算をこちらに掲載しました。

画面全域で十分に高い山となり、出力画像のドット数からするとレンズとしては十分とわかります。

総評

デジタルカメラの始祖として名高いCASIO QV-10ですが、現代的な視点で見るとスマートフォンの光学系とも似た超小型レンズでした。

思い返せば、QVシリーズの後継EXILIMシリーズの第一弾製品は、電話機能の無いスマートフォンのような形態でありました。

デジタルカメラの基礎を切り開き、スマートフォンの基礎かと見紛うような先見性の高い製品を開発したCASIOですが、残念ながらデジカメからは撤退となりました。

 関連リンク:CASIOデジタルカメラ

いつの日かプロジェクトXの開発秘話のように再び挑戦していただきたいものですね。

このように先進的な技術を開発しながら事業的には成功できなかった例はたくさんありますが、コダックも世界初であったデジタルカメラを開発しながら発売には結びつかずいつしか経営破綻しました。そんな随想をしたためた回想記はこちらです。

さて、プロジェクトXのエンディング曲「ヘッドライト・テールライト」(中島みゆき)を聞きながらおひらきとしましょう。

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作例・サンプルギャラリー

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価格調査

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製品仕様表

製品仕様一覧表 CASIO QV-10

画角49度
レンズ構成5群5枚
最小絞りF8
発売日1995年3月10日

記録メディアは、事故防止のため信頼性の高い物を使いましょう。

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