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【深層解説】各社50mm F1.4の比較-分析025

シグマ、ニコン、ソニーが販売する最新50mm F1.4の比較検証。

特許情報や実写の作例から光学系の設計値を推測し、シミュレーションによりレンズ性能を分析します。

世界でこのブログでしか読む事のできない特殊情報をお楽しみください。

新刊

レンズの概要

当ブログも移転による遅延もありましたが20本以上の分析を終え、偶然ですが各社の最新50mmF1.4仕様のレンズ分析が完了しましたので比較記事を作成してみようと企画しました。通常の記事では1本のレンズ掘り下げて分析していますが、今回は同仕様のレンズを並べて分析を行ってみたいと思います。

比較するのはこれまでに分析を終えた以下の4製品です。

上記のリストのリンク先は過去の個別分析記事になります。

NIKKOR50mm F1.4Dは1970年代に設計されていますのでオールドレンズ代表(基準)です。その他3本については2010年以降の製品で、各社の現行最新レンズとなります。※2020年現在

私的回顧録

現代では50mm F1.8が安くて小さく標準レンズとして販売されていますから若い人ほど「F1.4こそ標準」と言われてもピンとこないかもしれません。しかしフィルム時代の標準レンズとは50mm F1.4を指していたのです。

私自身、もらい物のカメラに50mm F1.4を装着しレンズ沼ズブズブの人生をスタートさせました。

まず、なぜF1.4が標準なのかを説明したいと思います。

Fnoとはレンズの明るさを示す指標ですが、実質的にレンズの口径(面積)を指しており、Fnoが√2(≒1.414)倍になるごとに明るさは半減する関係になります。(同露出を得るためにはシャッタースピードをちょうど半分にする)そのためFno1.0 1.4 2.0 2.8…と言う√2倍の数で表現されるのが一般的です。Fno1.2とか1.8の数値は、単純な√2倍の数では無いため数値並び的にもFno1.4が王道となるのです。露出制御がマニュアルだった時代ではFnoが切りの良い√2倍の数なら各種計算も簡単で取り扱いやすいと言う利点もあったでしょう。また、Fno1.4を超えてさらに明るい製品は、性能や構造的に実現が難しく全社が製品化しているわけではないこともF1.4を標準とする理由となります。

以上、なんともこのブログらしい濃ゆい「標準レンズ」の説明でした…

文献調査

特許文献は各製品の詳細分析記事をご覧ください。

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

関連記事:光学性能評価

光路図

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 断面図 光路図

発売日順に上から並べてみました。通常の分析記事では断面図のサイズは各製品ごとにサイズ感がバラバラですが、今回は統一した表示倍率で再制作しており、実物同士のサイズ比と同じです。

各社のサイズの特色を見てみます。

NIKKOR 50mm F1.4D ガウスタイプかつ非球面レンズも無しで、基準として扱うに最適な構成です。(以下、基準レンズと記載します)

NIKKOR 58mm F1.4 厳密には50mmからずれていますが、NIKONの最新50mm F1.4として扱います。非球面レンズを2枚投入しているものの基準レンズに対して2枚追加のみで、他のレンズに比較すると十分小型です。

SIGMA Art 50mm F1.4 基準に比べなんと6枚ものレンズが増え、非球面レンズも1枚採用しています。サイズに至っては全長がおよそ2倍、径も一回り太いようです。レンズの構成を見てみますと、撮像素子側にガウス型のレンズを配置し、フロントコンバータレンズを被写体側へ置くような構成で、SIGMA Artシリーズの典型パターンです。

SONY FE50mm F1.4 この中では唯一のミラーレス用のレンズとなります。ミラーレス専用光学系の特徴は、撮像素子付近にまでレンズを配置することが可能であるため設計自由度がより高い点にあります。旧来型の一眼レンズは光学ファインダー用のミラーと撮影レンズの干渉を避けるためレンズが被写体側へせり出したように配置されていますが、これが不要な分、設計自由度が高まるわけです。このミラーレス用のSONYレンズは、SIGMAより1枚レンズが少ないのですが全長が短く、径も細くなるようですね。

縦収差

球面収差 軸上色収差

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 球面収差

まずはいつもの分析記事と同じく球面収差から比較してみましょう。

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ)オールドレンズらしく中間部がマイナス側へ膨らんだフルコレクション型の収差で、絞り開放での解像度はふわふわです。

NIKKOR 58mm F1.4は3次元的にハイファイと説明される特殊な形状でボケ味と解像度を同時に満足する収差の形となっています。

SIGMAArt 50mm F1.4は信じ難いレベルまで収差を補正しています。この製品から新時代の50mm競走が始まったとも考えれられます。

SONY FE50mm F1.4もSIGMAと甲乙付け難いレベルの高性能です。

像面湾曲

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 像面湾曲

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ)ガウスレンズらしくサジタルの像面湾曲がマイナイス方向に大きく、タンジェンシャル方向はそこそこに収まる補正結果です。

NIKKOR 58mm F1.4 サジタル方向は基準レンズの比較してだいぶ抑えたようですが、タンジェンシャル方向は中間像高位置までは小さいものの最周辺での変動は大きいようです。

SIGMAArt 50mm F1.4 基準光線d線(黄色)はほぼ完全に抑えていますが、g線(青)での変動が大きいようです。

SONY FE50mm F1.4 SIGMAとは逆にc線(赤)の変動が大きいようです。

歪曲収差

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 歪曲収差

ガウスタイプは対称型配置のためあまり大きな歪曲収差は出ませんが、SIGMAやSONYは、より一層歪曲収差を減らしているのが特徴的です。

倍率色収差

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 倍率色収差

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ)最大像高付近でのg線(青)の曲がりは気になるものの全体によくまとまっています。

NIKKOR 58mm F1.4 理想値に近いレベルに補正されています。

SIGMAArt 50mm F1.4 理想値に近いレベルに補正されています。

SONY FE50mm F1.4 SIGMAと比較し、一段大きいようです。近年は倍率色収差については画像処理で抑えてしまうようなので、光学的には収差は抑えず、余った自由度で解像度を上げたり、小型化したりを狙っているものと思われます。

横収差

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 横収差

横収差として見てみましょう。

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ) サジタル・タンジェンシャル方向ともに甚大なフレア成分が残っていますが、これが良い味の正体です。

NIKKOR 58mm F1.4 タンジェンシャル方向のコマは少し気になりますが、画面中間部の像高12mmまではサジタル方向のフレアが少なくこれが3次元的にハイファイな設計の一端でしょうか…小型なレンズながらも画面中間部まではSIGMA/SONYとも大きな差は無く、小型ながらかなり健闘していると言えます。

SIGMA Art 50mm F1.4 十分高性能ですが設計の新しいSONYにわずかに劣るようです。

SONY FE50mm F1.4 色収差は若干目立つものの、コマ・フレアは十二分に抑制されています。

新発売

スポットダイアグラム

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 スポットダイアグラム

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

通常の記事ではスケールを記事毎に変更していますが、今回は±0.1mmで統一して再制作しています。

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ) スケールに収まりきっていませんね。

NIKKOR 58mm F1.4 左右のピントズレ位置(ボケ領域)でのスポットも丸く小さくまとまっており独特の形状、3次元的にハイファイか…(しつこい)

SIGMA Art 50mm F1.4 赤はかなり抑制しているようです。青は広がりが大きいですが、視感度は低いので気にはならないでしょう。

SONY FE50mm F1.4 最周辺の像高までスポットがスケール幅内に収まっています。恐ろしい。

MTF

開放絞りF1.4

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 MTF F1.4

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ) 全体に山がのっぺりとしているものの頂点位置が合っているため画面全域でピントが良好でしょう。

NIKKOR 58mm F1.4 中心域では基準のF1.4Dと大差無いものの中間像高12mmあたりはなかなか山が高くなっています。

SIGMAArt 50mm F1.4 中心域はトップですが中間像高はわずかにSONYに劣るようです。

SONY FE50mm F1.4 中心域はSIGMAに劣るものの中間~最周辺までの全体バランスで見るとSONYがトップと言わざる得ないでしょう。

小絞りF4.0

NIKON SONY SIGMA 50mm F1.4の比較 MTF F4.0

NIKKOR 50mm F1.4D(基準レンズ) さすがガウスタイプ、信じ難い改善をします。実用上、他のレンズとの差は無いでしょう。

NIKKOR 58mm F1.4 周辺部の山の頂点ズレが顕著です。

SIGMAArt 50mm F1.4 ほぼ理想状態のレンズとなっています。絞り込み時の性能はトップです。

SONY FE50mm F1.4 十分な性能ですが、倍率色収差が残っているぶん周辺部の改善度合いが若干SIGMAに劣るようです。

総評

だいぶ前から比較検証記事を作りたいと考えてはおりましたが、初回の比較記事と言うこともあり、各社の顔たる標準レンズ50 1.4を比較してみました。

基準とした70年代から販売されているNIKKOR 50 F1.4Dも軽量コンパクトで素晴らしい味のレンズですが、NIKKOR 58 F1.4も独特の設計が光ります。

サイズについては許容し解像性能とコスパだけで言えばSIGMA Art 50 F1.4となりますが、SONY FE50 F1.4もミラーレスの特徴を生かし小型かつ軽量化しつつも超高性能を実現しており大変に気になる存在です。

当然ですが実際の購入に際しては、価格、重量なども重要な要素ですからこの中から1本を選択するのは困難を極めると言わざるを得ない難題です。

結論としては、最適な選択は存在しない、要は「沼から出られるわけが無い」と言うことでしょうか…

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

製品仕様表

製品仕様一覧表 各社50mm F1.4

NIKKOR 50F1.4DNIKKOR 58F1.4SIGMA 50F1.4SONY 50F1.4
画角46度40.5度46.8度47度
レンズ構成6群7枚6群9枚8群13枚9群12枚
最小絞りF16F16F16F16
最短撮影距離0.45m0.58m0.4m0.45m
フィルタ径52mm72mm77mm72mm
全長42.5mm70mm123.9mm108mm
最大径64.5mm85mm85.4mm83.5mm
重量230g385g890g778g


その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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