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【深層解説】 ニコン超望遠ズーム NIKON AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6G ED VR -分析116

ニコンの一眼レフカメラFマウントシステムより、超望遠ズームAF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6Gの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

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レンズの概要

AF-S Nikkor 80-400mm f/4.5-5.6Gは、NIKONの一眼レフ用Fマウントレンズとしては後期に発売された超望遠ズームレンズです。

まずは、NIKONにおける望遠端(長焦点距離側)が300mmを越える望遠ズームの系譜を確認してみましょう。

下のリストは、Fマウント創成期からZマウント100-400mm F4.5-5.6に至るまでの代表的な望遠ズームレンズです。

  • Zoom NIKKOR Auto 50-300mm F4.5 (1967)13群20枚
  • Zoom NIKKOR Auto 200-600mm F9.5 (1971)12群19枚
  • Ai Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5S (1977)11群15枚(前回の記事)
  • Ai Zoom NIKKOR ED 200-400mm F4S (1984)10群15枚
  • Ai AF Zoom NIKKOR 75-300mm F4.5-5.6S (1989)11群13枚
  • Ai AF VR Zoom NIKKOR ED 80-400mm F4.5-5.6D(2000) 11群17枚【初代】
  • AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6G ED VR (2013)12群20枚【二代目】当記事
  • NIKKOR Z 100-400mm F4.5-5.6 VR S(2022)20群25枚

前回の記事では、Fマウント初期の1970年代の望遠ズームとしてZOOM NIKKOR ED 50-300を分析し、懐かしい性能を確認しました。

一転しまして、今回はFマウント後期となる2013年に発売されたAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6Gを分析します。

 ※NIKONがフルサイズミラーレスZシリーズを発売したのは2018年。

焦点距離80-400mm仕様のズームレンズは、2000年に初代が発売されおり、当記事で分析するのは光学系が一新された二代目にあたります。

このレンズは、デジタル一眼レフカメラが絶頂の時期に発売されたこともあり大変な人気レンズとなり、多くの方が使用されたことでしょうし、あるいは購入を夢見たレンズではなかったでしょうか?

ところで、話は少し変わりますが、一眼レフカメラは、望遠レンズを快適に使うために発展してきた、そんな側面があります。

まず、ペンタプリズムやクイックリターンミラーにて正確なフレーミングとピント確認を実現し、オートフォーカスでは高速なピント合わせ、さらに手振れ補正のような革新的技術の搭載など、その多くの技術が望遠レンズで多大な効力を発揮します。

その一方、光学性能はどのような革新が起こったのでしょうか?

Fマウントの始まりから終焉までの約50年に渡る歴史の中、その後期に発売されたこの大人気レンズの中身を紐解くことで理解することが可能となるでしょう。

これまでは、ここらで「私的回顧録」としてコラムのような物を書いていたのですが、記事が長くなりすぎるので、別々の記事にすることにしました。

文献調査

発売年ごろのNIKONが出願している特許をつぶさに調べると、構成図のよく似た複数の文献が発見されます。

光学系の構成を請求項に記載する特開2014-145801が製品に近しい物と推測されます。

ここに記載された図面から判断するに、実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6Gの光路図になります。

本レンズは、ズームレンズのため各種特性を広角端と望遠端で左右に並べ表記しております。

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mmの状態、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mmの状態です。

英語では広角レンズを「Wide angle lens」と表記するため、当ブログの図ではズームの広角端をWide(ワイド)と表記しています。

一方の望遠レンズは「Telephoto lens」と表記するため、ズームの望遠端をTele(テレ)と表記します。

さらに、当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。

レンズの構成は12群20枚、黄色で示すレンズは望遠レンズにおいて補正が困難な軸上色収差に効果的なED(Extra-Low Dispersion)ガラスで4枚も採用されています。

さらに、紫色で示す第3レンズには、EDガラスを越え蛍石にも匹敵する超特殊材料SuperEDレンズを採用しています。

このような超特殊材料を大径なレンズに使うのですから誠に贅沢な事ですね。

EDガラスは、1971年にNIKONが他社に先駆けて生産を開始し、報道機関専用として限定販売されたNIKKOR‒H 300mm F2.8に初搭載されました。

なお、前回分析したAi Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5Sは1977年の製品ですが、この時期ようやくEDガラスが一般向けレンズにも採用が広がり始め、1枚だけ採用されています。

続いて、ズーム構成について以下に図示しました。

上図では広角端(Wide)を上段に、望遠端(Tele)を下段に記載し、ズーム時のレンズの移動の様子を破線の矢印で示しています。

ズーム構成を確認しますと、レンズは5ユニット(UNIT)構成となっています。

第1ユニットは、全体として凸(正)の焦点距離(集光レンズ)の構成となっていますが、このズーム構成を凸(正)群先行型と表現します。

この凸群先行型は、望遠端の焦点距離が70mmを越えるズームレンズで多い構成です。

高倍率ズームや望遠ズームレンズは、ほとんど全て凸群先行型と見て間違いありません。

第1ユニット、第3ユニット、第5ユニットが望遠端になるについて被写体側へ移動します。

望遠ズームレンズには、第1ユニットが固定の物と飛び出す(移動する)物の2種類があります。

第1ユニットが飛び出すタイプは、広角端の状態にすると全長をとても小さくできるので、高い携帯性を求めるユーザーに人気です。

第1ユニットが固定のタイプは、堅牢性が高く、ホコリや水分の入り込みも少なく、報道機関など荒っぽい現場では好まれるようですね。

しかし、堅牢性や耐久性に定評のあるNIKONです、小型・携帯性とも両立していることでしょうから一般人が心配するような必要は無いでしょう。

このレンズは、計3個レンズユニットが移動しますので、前回分析したAi Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5Sより1つ増えています。

たった一つの増加と聞こえるかもしれませんが、移動ユニットと固定ユニットが交互配置され、非常に複雑化しています。

続いて、第2ユニットにはVR機構が搭載されています。

 ※VR:手ブレ補正機構 Vibration振動 Reduction減少

VR機構とは、上のレンズ図での上下方向にレンズユニットが高速で移動し、カメラを持つ手のわずかな振動を打ち消すのです。

一般的にレンズは、少しでも位置がずれると偏心収差が発生し画質が劣化してしまうのですが、現代の高度な光学設計技術は偏心収差をも最適化してしまうのです。

なお、このVR機能は、初代80-400mm F4.5-5.6にNIKONの交換レンズとしては初めて搭載されました。

また、フォーカス時にはおそらく第4ユニットが移動することでピントを合わせるものと推測されます。特許文献や公式HPに記載がなかったため私の推測です。

縦収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mm。

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、広角端はスッキリとした直線で高い解像度が期待できそうです。

望遠端はわずかに球面収差がマイナス側にふくらむフルコレクション型で像面湾曲とのバランスをとっているのでしょう。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差は、やはり特筆すべきは望遠端です。

前回分析したAi Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5SではEDガラスが一枚であったこともあり、グラフスケール内になんとか収まっているレベルの大きな収差でしたが、このレンズは十分に小さくまとまっており、軸上色収差の出ずらい広角端よりも少ないぐらいです。

EDガラス4枚と大径SuperEDガラスの甚大な効果ですね。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、広角端では申し分ないレベルで、望遠端ではg線(青)がグラフの上端で曲がりが強いようです。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、広角端ではほとんどゼロ、望遠端ではわずかにプラス側に倒れるので糸巻き型に歪みますが、ズームレンズとしてはとても優秀なクラスです。

倍率色収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mm。

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、広角端の画面の周辺側を示すグラフ上端部を見ると少々g線(青)曲がりが大きいですが、C線(赤)とg線(青)が重なった特性となり、収差は残る物のバランス良くまとめている模範的な形状です。

また、望遠ズームだけあって、望遠端の方が倍率色収差を小さく抑えており、広角端に比較すると半分適度にまとめているようです。

横収差

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mm。

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

左列タンジェンシャル方向は、広角端で画面の中間部の像高12mmからのコマ収差(非対称)が少々ある程度で、右列サジタル方向もかなり直線的で秀逸に補正されているようです。

新発売

スポットダイアグラム

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mm。

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

前回分析したAi Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5Sとは比べ物にならないレベルで小さくまとまっています。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

このスケールは現代的な超高性能単焦点レンズ用に準備しているものですが、拡大して見ても十分グラフスケール内に収まっています。

あえて言うと倍率色収差の影響で、広角端の画面の中間部の像高12mmを越えるとg線(青)とC線(赤)がくっきりとずれています。

望遠端は拡大してもほとんどアラが無いレベルですね。

MTF

左図(青字Wide)は広角端で焦点距離80mm、右図(赤字Tele)は望遠端で焦点距離400mm。

開放絞りF4.5-5.6

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

Fnoが4.0を超えて暗いレンズはピントの合う距離(深度)が深くなるため、ディフォーカス量(グラフ横方向)を±0.4mmと通常設定の4倍としてるのでご注意ください。

開放絞りでのMTF特性図で、広角端から見ると画面中心部の性能を示す青線は、現代的な単焦点かと思うほどに高い特性です。

周辺部のグラフを見ても、中心との差も少なく、Ai Zoom NIKKOR ED 50-300mm F4.5Sから30年ほどで格段の進化を遂げていますね。

さらに望遠端の方は、広角端を上回るレベルで、グラフの山の一致度も高く画面全域で高い解像度のようです。

ほんのり球面収差が残っていたようですが、杞憂に過ぎないものだったようです。

小絞りF8.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

広角端側は、開放Fno状態で少し残っていた画面隅の像高21mmグラフの山の位置ズレがだいぶ改善し、非の打ち所がない状態になります。

望遠側は、元の開放Fnoの状態から非常に高い性能だけに違う意味で変化がありません。

なお、Fnoを小さく絞った時、山の幅が広がるように見えますが、これはピントの合う距離(深度)が深くなることを示します。

総評

NIKONが50年に渡り守り続けたFマウントの絶頂期に発売されたAF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6Gは、高い光学性能と携帯性に手振れ補正などの先進的技術が加えられ、これはまさにFマウントの歴史、一眼レフカメラの歴史、光学設計の歴史、その進化の全てを代表するような性能と機能美に溢れた製品であることがわかりました。

ミラーレス一眼が主流となった現代でも、電子的な遅れ(タイムラグ)の無い一眼レフカメラの光学ファインダーは望遠撮影に優位ですし、値段もこなれておりますから今のうちにご購入を検討されてはいかがでしょうか?

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

作例・サンプルギャラリー

NIKON AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6Gの作例集は準備中です。

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製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON AF-S NIKKOR 80-400mm F4.5-5.6G

画角30.1-6.1度
レンズ構成12群20枚
最小絞りF32-40
最短撮影距離1.75m
フィルタ径77mm
全長203mm
最大径95.5mm
重量1570g
発売日2013年 3月14日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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