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【深層解説】 ニコン超大口径標準レンズ NIKON Nikkor Z 50mm F1.2S -分析079

この記事では、ニコンのミラーレス一眼Zマウントシステム用の交換レンズである超大口径標準レンズZ 50mm F1.8Sの歴史と供に設計性能を徹底分析します。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

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レンズの概要

本レンズNIKON Nikkor Z 50mm F1.2Sは、NIKON ミラーレス専用Zマウントの標準画角レンズです。

また、NIKONレンズにおけるフラッグシップのSシリーズに分類され、超大口径のF1.2仕様かつ高性能なレンズとなっています。

まずは、NIKONにおける超大口径F1.2の系譜を確認してみましょう。(発売年)

  • NIKKOR-S Auto 55mm F1.2 (1965)5群7枚
  • New Nikkor 55mm F1.2 (1975)5群7枚
  • Ai Noct Nikkor 58mm F1.2 (1977) 6群7枚
  • Ai Nikkor 50mm F1.2 (1978)6群7枚
  • NIKKOR Z 50mm F1.2 S (2020)15群17枚★当記事

 ※光学系が流用されているものは除いています。

直接の先代製品であるAi Nikkor 50mm F1.2は1978年の発売ですから、このZ 50mm F1.2の発売までは実に40年もの期間が開いたことになります。

なお、Zマウントにおける焦点距離50mm台のレンズは、執筆現在(2022)では以下の3本が発売となっています。

ミラー有一眼レフ用のFマウント時代も多数の焦点距離50mm台のレンズがありましたが、ミラーレス化されたZマウントでも、開始から3年ほどですでに3本目の50mm台レンズが発売されてます。

NIKONの50mm好きも筋金入りと言ったところでしょう。

 関連記事:NIKON Fマウント 50mm F1.8

私的回顧録

あらためて、Fnoによるレンズの大きさの違いを比較してみましょう。

下図では、NIKON Nikkor 50mm F1.8D 、 50mm F1.4D 、 50mm F1.2の3本を同スケールで描画してみました。

NIKON Nikkor 50mm F1.8D 、 50mm F1.4D 、 50mm F1.2の3本を同スケールで描画

実際に製品を手に取ると、あまり大きさは変わらない感じがするのですが、光学系だけで見るとF1.8とF1.2ともなると二回りほど違うことがわかりますね。

これは、レンズが小さくともフォーカスリングや絞りリングなどの操作部材は極端に小さくすることができませんから、結果的に小ささには限度があり製品としての仕上がりは意外に差が無くなることが理由です。

さて、数式は書きたくありませんが、Fnoは『Fno = 焦点距離 / 口径(d)』の関係で示されます。

上図のレンズは、全て焦点距離50mmと同じ数値ですから、単純に口径(d)の違いがFnoに直結します。

Fnoの違いを概念的にとらえると、先ほどの公式の関係から「口径が太いほど、Fnoの数値は小さく」なります。

また、図でわかるように口径が太いということは取り込む光の量が多いことでもあり「明るいレンズ」とも言えます。

Fnoが小さいほど、明るいレンズ」の関係性はここから導き出されるわけです。

ここで注意点ですが、ここでの口径とは、撮像素子中心部へ集光する光線束の太さ(軸上光線径)のことで、被写体側レンズ(前玉)の径寸法ではありません。

ただし、一般的に焦点距離50mmより長いレンズは、口径と前玉がおおむね一致しますので色々と誤解が生じてしまいます。

しかし、反対に広角レンズは口径が細く、前玉は大きくなります。広角レンズは、F3.5などの暗いレンズが多いですが、前玉は大きいですよね。

この「口径」を見た目から説明すると、レンズを被写体側から見た時の絞り部分の径であり、人間なら瞳孔(ひとみ)に相当するものです。

単純に口径と言うとレンズの径寸法と勘違いされるため、光学の専門家は「見かけのひとみ径」と言う方も多いですね。

ちなみに「見かけ」とは「レンズを通して見たときの」との意味です。

レンズを通して見ていると実際のサイズとは違って見えるため「見かけの」と表現しているのです。

過去には1枚のレンズでFnoの違いを比較した記事も執筆しておりますので参考にご確認ください。

 関連記事:Fnoとレンズの大きさ

文献調査

このNikkor Z 50mm F1.2は、私の方へ直接分析依頼をくださる方も多かったレンズで、皆様の注目度の高い製品でしたが、発売より1年以上かかりようやく分析となりました。

これは特許が公開された時期による影響で、私がさぼっていたわけではありません。特許は出願から公開となり、第三者が読めるようになるまで感覚的には1年半ほどかかります。

よって、製品の発売と同時期に特許が出願されたと仮定すると、その特許が公開され読めるようになるまで製品発売から1年以上かかることになります。

電子化の進んだ現代ですから、システム上は数週間で公開することも可能と思いますが何か法的な事情でもあるのでしょうか…

なお、最近のNIKONの製品は、国際公開(WO)という形式で出願されているようです。

国際的な特許の仕組みはさっぱり知りませんが、全世界同時に特許を出願するような方式なのでしょうかね?

大企業はやることが違いますから真意は理解できませんが、WO2021/241230の実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON Nikkor Z 50mm F1.2Sの光路図になります。

レンズの構成は15群17枚、球面収差や像面湾曲の補正に効果的な非球面レンズは3枚採用され、色収差の補正に効果的なEDレンズは2枚採用されています。

絞りの前後に広い空間を持ち、きついカーブの凹レンズが配置されるあたりにはほんのりとガウスレンズの香りを残しますが、何かの兵器かと思うような面構えです。

撮像素子近傍のレンズは、ギュッと詰まって細く絞られたような配置となっており、業界でも最大クラスの大きさを誇るNIKON ZマウントをしてもF1.2の大口径レンズを収めるのに苦労したのではないかと苦労が偲ばれます。

偶然の一致でしょうが、Nikkor Z 58mm F0.95とも同じレンズ枚数で17枚構成のようですね。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、すでにNikkor Z レンズをいくつか分析済なのでもう驚く事ではありませんが、F1.2の大口径とは思えないレベルの収差量にまとめています。

画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も同様に根本も十分に補正されていますが、球面収差のグラフ先端に行くとより重なり合い細くなる美しい補正がなされています。

像面湾曲

画面全域の平坦度の指標の像面湾曲は、ほんのわずかにマイナス側に倒れていますが、球面収差の形状に合わせているもので、MTFで見ると山の頂点は一致しているのでしょう。

歪曲収差

画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、ほぼゼロです。一般的なダブルガウスタイプの50mmレンズはマイナス側に少し倒れた特性となりやすいのですが、完璧に補正されています。

今の時代は画像処理による補正を利用するレンズも増えてきましたが、標準レンズは光学的に完璧でありたいと思う光学メーカーとしてプライドなのでしょう。

倍率色収差

画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は面隅の像高21mm近傍ではg線(青)がわずかに大き目なものの、現代的な高級レンズクラスの補正がなされており、ここでも画像処理による補正には頼らない姿勢を見せています。

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。

F1.2の超大口径であることを感じさせない精緻さであることがわかります。

新発売

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。

ほぼ、全域にわたりスポットが小さく、しかもいびつさが少ないことがお分かりでしょうか。

単に小さくまとめるだけでなく、スポット形状の美しさにも配慮していることがわかります。

解像度とボケの味の両立を高次元に成立させようとの意図でしょう。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

スポット形状にV字などが見られず丸みが強いのがわかりやすいでしょう。

MTF

開放絞りF1.2

最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

開放FnoのMTFでもすでに山が美しく切り立っているのがわかります。

解像度を得るために絞るそんな必要など皆無と言えるでしょう。

小絞りF2.8

FnoをF2.8まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。

少し絞ったF2.8の段階でMTFの山はすでに上がり切ってしまいます。

小絞りF4.0

さらに絞ったF4.0では、良い意味で変化しません。
これは元が良すぎて、絞ってもそれ以上改善しないわけですね。

総評

諸説あるものの、カメラの標準レンズは焦点距離50mmであり、特に一眼レフではシステムの根幹を成すレンズです。

NIKON Zマウントの標準レンズ達を眺めると、それぞれが独創的でありながら新時代でも最高のレンズを目指していることが伝わります。

写真とレンズに対する真摯な姿勢、伝統にとらわれず先進の技術を追求する精神、その真髄を「標準50mmの設計値として示す」とは、これぞ伝統ある光学企業たる矜持、と感心せずにはおられませんね。

その他、Fマウント時代のレンズからの進化を比較分析した記事を用意しております。

 関連記事:NIKON 50mm F1.2 Fマウント vs Zマウント

以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。

LENS Review 高山仁

このレンズに最適なカメラをご紹介します。

作例・サンプルギャラリー

NIKON Nikkor Z 50mm F1.2Sの作例集です。


こちらは、Krime様よりご提供いただいた作例です。
撮影者様の他の作品はこちらです。instagram Twitter

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製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON Nikkor Z 50mm F1.2

画角47度
レンズ構成15群17枚
最小絞りF16
最短撮影距離0.45m
フィルタ径82mm
全長150mm
最大径89.5mm
重量1090g
発売日2020年12月11日

その他のレンズ分析記事をお探しの方は、分析リストページをご参照ください。

以下の分析リストでは、記事索引が簡単です。

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  • この記事を書いた人

高山仁

いにしえより光学設計に従事してきた世界屈指のプロレンズ設計者。 実態は、零細光学設計事務所を運営するやんごとなき窓際の翁で、孫ムスメのあはれなる下僕。 当ブログへのリンクや引用はご自由にどうぞ。 更新情報はXへ投稿しております。

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