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【深層解説】ニコン ボケ可変中望遠レンズ NIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2S Part1:収差編 -分析091

ニコン Ai AF DC ニッコール 135mm F2Dの性能分析・レビュー記事です。

さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?

当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。

当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。

作例写真は準備中です。

レンズの概要

DC NIKKOR 135mm F2はニコンFマウント用の大口径中望遠レンズです。

まずは、NIKKORレンズにおける焦点距離135mmレンズの系譜を振り返ってみましょう。

マイナーチェンジも含めて全て一覧にしました。カッコ()は発売年です。

  • NIKKOR-Q Auto 135mm F3.5 (1959)3群4枚旧
  • NIKKOR-Q Auto 135mm F2.8 (1965)4群4枚
  • NIKKOR-Q Auto 135mm F3.5 (1969)3群4枚新
  • NIKKOR-Q C Auto 135mm F2.8 (1974)4群4枚
  • NIKKOR-Q C Auto 135mm F3.5 (1974)3群4枚
  • New NIKKOR 135mm F2 (1976)4群6枚
  • New NIKKOR 135mm F2.8S (1976)4群5枚
  • New NIKKOR 135mm F2.8 (1975)4群4枚
  • New NIKKOR 135mm F3.5 (1976)3群4枚
  • Ai NIKKOR 135mm F2 (1977)4群6枚
  • Ai NIKKOR 135mm F2.8 (1977)4群5枚
  • Ai NIKKOR 135mm F3.5 (1977)4群4枚
  • Ai NIKKOR 135mm F2S (1982)4群6枚
  • Ai NIKKOR 135mm F2.8S (1981)4群5枚
  • Ai NIKKOR 135mm F3.5S (1982)4群4枚
  • Ai AF DC NIKKOR 135mm F2S (1991)6群7枚当記事
  • Ai AF DC NIKKOR 135mm F2D (1995)6群7枚

レンジファインダー用のSマウントレンズの流用から始まったFマウントの135mmレンズですが、1980年代まではFno仕様が異なる3種類のレンズがラインナップされていました。

しかし、1990年代に入ると当記事のDC NIKKOR 135mm F2の1種のみとなり、1995年には光学系を流用した後継機となるDモデルが発売されると執筆現在(2022年)においても、新たな135mmレンズは発売されていません。

かつて栄華を誇った135mmの没落の歴史そのものと言える様相ですね。

135mmの歴史とは、マニュアルフォーカス時代は手軽な望遠レンズとして君臨しながら、オートフォーカス化やズームレンズの高性能化によって次第に立場を失い、特殊な機能の追加で頑張るも…ついに力尽きた?と言ったところでしょうか。

なお、レンズ名称の「DC」の意味するところはDefocus Image Controlの略で、ボケ味を可変することができる、とても希少な機能を持つレンズとなっています。

当記事は前半の収差分析編として、いつもの分析スタイルでDC NIKKOR 135mm F2の基本性能を分析します。

なお、後半となる次回の記事ではDC(ボケ可変)について詳しく紹介しています。

 後半記事:DC NIKKOR 135mm F2 DC編

私的回顧録

『ボケ味の追求』

ボケという表現は日本が発祥であるとされ、なんと英語圏でもBokehと言う。

 関連情報:英語版Wikipedia「Bokeh」

日本人がことさらボケを愛でるのは、日本の古典的美術からその傾向を見ることができるのではないでしょうか。

日本の美術は、不完全の中に美を求める物が多く、幽玄さの表現としてぼかしの技法が重視される日本画や水墨画、素人では良さの判断すら難しい茶器など、昔から緻密さや解像度とは違ったところに美を見出すことが好きな国民であると推測されます。

このような国民性が結果として「ボケを愛でる文化の醸造」に作用しているのでしょう。

一方の古典的な西洋的美術は、幾何学的で精巧さと緻密さが重視される傾向にあることは感覚的に理解していただけるでしょう。

さて、レンズにおけるボケ味の追求については、特殊機材の一例としてアポダイゼーション素子を使うことで画面全全域で解像感とボケを両立する極めて特殊な機材があります。

過去に分析したMINOLTA STF 135mm F2.8や、FujiFilm XF56mmF1.2「APD」モデル、SONY FE 100mm F2.8 GMなど、製品としてはわずかですが現在(2022)でも販売されているレンズです。

他にも、3次元的なハイファイさを重視したと言うNIKON NIKON AF-S NIKKOR 58mm F1.4Gのボケは個人的には大好きで、あるいは超弩級の解像度と超大口径のNIKKOR Z 58mm F0.95もボケに対する一つの回答なのでしょうか?私には購入できませんが…

撮影テクニックとして、昔から知られているのは、「レンズの前玉側にストッキングを被せる」とか「前玉にワセリンを塗る」など創意工夫を凝らした手法も知られていますね。

また、最近のスマートフォンのカメラ機能では背景にボケを付加する機能もあるようです。

レンズの進化や発展を考えると、本来は「解像度を向上させ、より正確に記録すること」これこそが真の目的であったはずですが、なんとも意外な「ボケを愛でる文化」によって、カメラ業界も巻き込んで「何かを拗らせている」そんな気もしてしまいますね。

さて、ディフォーカス・イメージ・コントロール(DC)によってボケ味を可変する、今回の本題NIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2Sではどのような仕組みでボケ味をコントロールするのでしょうか、まず本編では基本性能を確認してみましょう。

文献調査

特開平1-259314を見ると、2種の中望遠レンズの設計例とボケのコントロールに関する詳しい説明がなされています。

特許文献に記載された実施例2の仕様は135mm F2.0で本記事のDC NIKKOR 135であることは明白です。

実施例1は、105mm F2ですからDC NIKKOR 105mm F2であると推測されます。

1つの文献で2本記載されているのでなんともお得な文献です。

この特許の出願日は1988年で、DC NIKKOR 135mmの発売は1991年、続くDC NIKKOR 105mmの発売は1993年ですから特許の出願から5年かけて2本レンズが市場に出ていることがわかります。

この特許を発案・開発された方は1989年よりさらに前からボケコントロールの重要性を見抜き研究されていたわけです。

その独創性と先見性には頭が下がりますし、見事に2つの製品を世に送り出し、現在でも販売されるようなロングセラーとする実績まで残すのですから紫綬褒章の2つぐらいは差しあげていただきたいものです。

こんな変わったレンズを135mmと105mmで2本も販売するのですから…奇跡ですよ。

なお、本家NIKONの設計者が書き記した開発伝記が新装され出版されています。

当レンズも登場するニッコール千夜一夜物語はこちらからどうぞ。

それでは、実施例2を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。

 関連記事:特許の原文を参照する方法

!注意事項!

以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。

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設計値の推測と分析

性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。

 関連記事:光学性能評価光路図を図解

光路図

上図がNIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2Sの光路図になります。

6群7枚構成、非球面レンズや異常分散ガラスなどの特殊材料は採用していないようです。

同じF2仕様のレンズの祖先となる1976年発売のNew NIKKOR 135mm F2 (1976)が4群6枚と言いますから1枚増えた程度の差のようです。

なお詳しい機構は、次回となる後半の記事「DC編」で紹介しますが、レンズの外観を見るとDCリングなる操作機構があり、これを回転させると第3レンズと第4レンズが移動することでボケをコントロールすることができます。

絞りよりも撮像素子側の第5/6/7のレンズを移動させることでピント合わせ行うリアフォーカス型になっているようです。

なお、以下に示す収差などの特性値はすべてDCリングをセンターにした状態(ニュートラル)での性能です。

縦収差

左から、球面収差像面湾曲歪曲収差のグラフ

球面収差 軸上色収差

球面収差から見てみましょう、基準光線であるd線(黄)は略直線の特性で構成枚数の少ないレンズで見られるような少しマイナス側に膨らむフルコレクション型でありません。

このレンズは、DCリングにより球面収差の形を自由に変化できるため、DCリングを中心にセットした状態ではできるだけクセを持たせないニュートラルな形を目指したものと思います。

軸上色収差はFナンバー2.0と明るいわりに構成枚数が少ないため少々大き目ですが、d線(黄)とF線(水色)が重なる高解像を得やすい収差にまとめられています。

g線(青)がグラフ上端で大きく曲がるものの、C線(赤)は逆にd線(黄)へ近づくように曲がるため嫌味な赤が少なく、すっきりとした印象の仕上がりになりそうです。

像面湾曲

像面湾曲は中望遠レンズだけあって変動が少ないことから特に問題の無いレベルに収まっています。

歪曲収差

歪曲収差はほとんどゼロですね。

倍率色収差

倍率色収差はFナンバーの大きさと構成枚数の割には、かなり健闘しているようです。

倍率色収差は小絞りにした方が目立つ収差ですが、このレンズは開放でボケを楽しむレンズなのであまり関係無いでしょうか…

横収差

タンジェンシャル、右サジタル

横収差として見てみましょう。

グラフ左列のタンジェンシャル方向を見ると、軸上色収差の残りからg線(青)の曲がりが目立ち、また大口径だけあって中間像高12mmぐらいからのコマ収差が若干目立ちます。

絞ると劇的に減る形状なので、解像度が欲しい時は1段でも絞ると激変するでしょう。

グラフ右列のサジタル方向を見ると、サジタルコマフレアはF2.0の大口径のわりにおとなしくスポットのV字感は無さそうです。

スポットダイアグラム

スポットスケール±0.3(標準)

ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。

軸上色収差の影響で全体に青めですが、画面の隅までスポット形状がまる味を帯びており、ボケの美しさにこだわるレンズらしい仕上がりです。

スポットスケール±0.1(詳細)

さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。

MTF

開放絞りF2.0

最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。

全体に極度に高いわけではありませんが、均質でそろった山の形状なので、画面隅々まで均質な画質が得られそうです。

小絞りF4.0

FnoをF4まで絞り込んだ小絞りのMTFです。

横収差図で見えるコマ収差の影響が絞りによりカットされるため全体に山が引き締まりますね。

総評

NIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2の基本性能はいかがだったでしょうか。

今回分析したのニュートラル状態での収差は、個性を抑え、そつなく仕上げることに注力していることがうかがえます。

そうすることによって、DCコントロールを操作時にボケの味付けが顕著になることを狙ったのでしょう。

普通のレンズとしてもなかなかにバランスの取れた仕上がりとも言えます。

さて次回は、本題のDCコントロールの効果を分析する後半「DC編」となります。

 後半記事:DC NIKKOR 135mm F2 DC編

 

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作例・サンプルギャラリー

NIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2Sの作例集は準備中です。


当ブログで人気の「プロが教えるレンズクリーニング法」はこちらの記事です。

製品仕様表

製品仕様一覧表 NIKON Ai AF DC NIKKOR 135mm F2S

画角18度
レンズ構成6群7枚
最小絞りF16
最短撮影距離1.1m
フィルタ径72mm
全長120mm
最大径79mm
重量815g
発売日1991年4月発売

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