ソニー FE 85mm F1.4 GMの性能分析・レビュー記事です。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
作例写真は準備中です。
新刊
レンズの概要
SONY FE 85mm F1.4 GMは、SONY FEレンズシリーズの大口径中望遠レンズの最高峰(2020執筆時点)となるレンズです。
この85mmの名称末尾の「GM」の意味は、MINOLTAのA(α)マウント時代からある高級グレードレンズの称号「G」のさらに上「G Master」と言う意味の略称です。
要はGMとは「MINOLTA系レンズの最高峰」と言いたいのでしょう。
一方で50mm F1.4はSONYが昔から使うZEISSのグレード名称を付けており「SONY系レンズの最高峰」です。
両者に光学設計上どのような違いがあるのか、大変興味深い問題です。
本項の85mm F1.4はGM=MINOLTA系レンズなので、まずはMINOLTA 85mm F1.4のA(α)マウントの系譜をたどってみましょう。
- AF85mmF1.4(1987)6群7枚
- AF85mmF1.4G(1993)6群7枚
- AF85mmF1.4G(D)(2000)6群7枚
- AF85mmF1.4G(D)Limited(2001)6群7枚
- SONY Planar T* 85mm F1.4 ZA (2006)6群8枚
- SONY FE 85mm F1.4 GM(2016)8群11枚
1985年から始まるオートフォーカスを前提に開発されたMINOLTAの新システムA(α)マウントですが、開始から2年後となる1987年に初代AF85mm F1.4(無印)が発売されます。
その後、1993年に2代目レンズは光学系は同じですがSSM(超音波モーター)が搭載され「Gグレード」へ昇進しました。
さらに2000年の3代目レンズG(D)までは光学系が同じと推測されますが、2001年の4代目Limitedは700本しか生産されなかった限定レンズですが「なんと光学系が異なる」と言うのです。
MapCameraさんのサイトの情報なので確かなのでしょう。
なかなか興味深い話なので今後追跡調査したいと思います。
最後に一応は表に追加しましたが、SONY製のA(α)マウントレンズも存在し、Planar T*とZEISSの名が付いていますが、これも色々と謎の深そうなレンズです。
そして、MINOLTAがSONYと合併し、その後に開発されたミラーレス用Eマウントのフルサイズ大口径中望遠として2016年に誕生したのが本項で取り上げる「SONY FE 85mm F1.4 GM」となります。
私的回顧録
本レンズが発売となった2016年と言えば85mmの当たり年でしょう。
SIGMA Artシリーズの「85mm F1.4 DG HSM」と本項の「SONY FE 85mm F1.4 GM」が同時に発売となりました。
SIGMAのArtシリーズは超高性能を目指したわかりやすい最上位シリーズ。一方のSONY 85mm GMはZEISSとどっちが上かよくわかりませんが上位クラスであることは確かです。
興味深いこの2本の比較は別の記事でまとめます。まずはSONY 85mmを深く分析してみましょう。
文献調査
特許文献はWO2017/130571と思われます。ここから形状の見た目が良く似る実施例1を製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
関連記事:特許の原文を参照する方法
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSONY FE 85mm F1.4 GMの光路図になります。
8群11枚、解像力を大きく改善するための非球面レンズは1枚、色収差を低減する特殊低分散レンズ(ED)は3枚搭載しています。
画角が異なるので直接的な比較はできませんが、SONYのZEISSブランド系である FE 50mm F1.4 ZAは恐竜的進化と言うか超高性能で独特な光学系でしたが、85mm GMは比較的オーソドックスな中望遠レンズに特殊加工の非球面レンズを搭載したスタイルのようです。
この特殊な非球面レンズは超高度非球面XAとの名称だそうで、公式HPの説明によりますと表面が非常になめらかで、非球面レンズが起こす玉ボケへ悪影響が少なく美しさを保つようです。
大口径レンズへ非球面レンズを搭載するとオニオンリングボケとか年輪ボケと言われる現象が目立ちやすくなりますがSONYとしてはひとつの解を得たと言うことなのでしょう。
オーソドックスな中望遠レンズと異なる点は、ミラーレス用だけあって撮像素子近くまでガラスでみっちりと埋め尽くされています。
中望遠レンズともなるとバックフォーカス(レンズ~撮像素子までの距離)に余裕がありミラーレスの恩恵は少ないものかと思いましたが、キッチリと使い切っているようです。
この性能がいかほどなのか順に見ていきましょう。
縦収差
球面収差 軸上色収差
球面収差は十二分に補正されているようです。グラフ上端でc線(赤)とf線(水色)が重なるあたりも解像感が高そうで好印象と言えます。
上端でg線(青)わずかにプラス側にのこりますが、1/3段も絞れば収差はカットされますし、この程度の量なら開放でも目立つほどでもありません。
軸上色収差も十分に小さい領域です。特殊低分材料を多数導入している意味がここにあるのでしょう。
像面湾曲
像面湾曲は、ほぼフラットに補正されています。
歪曲収差
歪曲収差はほんのわずかにプラスに残るものの目立つ量ではありません。
倍率色収差
倍率色収差は極小というほどではありませんが、デジタルカメラでは画像処理によって倍率色収差の補正が容易ですから、画像処理に強いと思われるSONYなので後処理側とのバランスを取っているのかもしれませんね。
横収差
左タンジェンシャル、右サジタル
横収差として見てみましょう。
タンジェンシャル方向のコマ収差(非対称成分)がかなり極小で解像力の高さを感じます。
サジタルはコマフレアが少々残るもののF1.4にしては十分なレベルです。開放の周辺部がほんのりやさしくボケるのでポートレートレンズとしてはこの程度残る方を好まれる方も多いのではないでしょうか?
1段も絞れば十分改善し高い解像力も得られるでしょう。
新発売
スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、最初にスポットダイアグラムから見てみましょう。
縦収差で見た通り、画面中心ではわずかにg線(青)が残りますが、青色と言うのは視感度も低いので目立つレベルではありません。
サジタルのコマフレアもわずかに残りがありますが、周辺部18mm像高あたりを見ても強いV字感はありません。
スポットスケール±0.1(詳細)
このスポットスケール±0.1は、±0.3(標準)と同じシミュレーションですがスケールを変更しスポットダイアグラムを拡大しています。高性能レンズでは標準スケールでは見づらいためです。
MTF
開放絞りF1.4
最後にMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
やはり現代的レンズらしくF1.4の大口径ですが開放Fnoから山も高く、位置のズレも小さいようで、解放からキレのある高解像度であることがわかります。
小絞りF4.0
開放から高性能だけあって絞ってF4ともなればほぼ無収差レベルの性能です。
総評
SONYの誇るG Masterグレードのレンズですから当然の高性能であることはわかりました。
また、現代的な高性能レンズのわりに比較的軽量な点も実用的な観点からは重要な事でもあります。
分析事例が少ないのでなんとも言い切れませんが、ZEISSグレードは性能を突き詰め、GMグレードは性能と重量・サイズなどの実用的なバランスを重視しているのかもしれませんね。
また、今回ミラーレス専用レンズの分析としては初の中望遠の事例となりましたが、意外にも中望遠レンズでもその特徴を生かした設計がなされている事がわかりました。
さて、まだまだ気になるのは同時期に発売されたSIGAM Art 85mm との比較ですが、この比較については今後の別記事で比較分析を行いたいと思います。
類似仕様のレンズ分析記事はこちらです。
関連記事:SIGMA Art 85mm F1.4 DG DN
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関連記事:HD PENTAX-D FA★85mmF1.4
関連記事:SIGMA Art 85mm F1.4 DG HSM
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
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作例・サンプルギャラリー
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製品仕様表
製品仕様一覧表 SONY FE 85mm F1.4 GM
画角 | 29度 |
レンズ構成 | 8群11枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.85m |
フィルタ径 | 77mm |
全長 | 107.5mm |
最大径 | 89.5mm |
重量 | 820g |
発売日 | 2016年 |