この記事では、オリンパス の一眼レフカメラ用交換レンズシリーズの大口径中望遠マクロレンズ ズイコー 90mm F2.0の歴史と供に設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
現代にもその名を残すOLYMPUS(現OMDS)の銘カメラと言えばOMシリーズですが、元は1970年代より始まるフィルム式一眼レフカメラがその源流です。
OLYMPUS初の35mmフイルムを採用したレンズ交換式一眼レフカメラ「OM-1」は1972年に発売され、当時の35mmフィルム一眼レフカメラの中で最小・最軽量で驚異的なサイズ感を実現したカメラでした。
OMシステムに合わせて準備されたのがOMマウント専用「Zuiko(ズイコー)」レンズ群で、基本のフィルタサイズがφ49かφ55とレンズも小型化されながら高画質化も達成し人気のシステムとなりました。
Zuikoレンズシリーズの特徴的な点のひとつは、FnoがF2.0と当時では大口径なレンズが多数発売されたことが挙げられます。
多くのレンズで「F2.0大口径」と「F2.8あるいはF3.5などの小口径」の2系列からレンズが選べるようになっていたのです。
F2.0仕様のレンズが用意された焦点距離は、21mm、24mm、28mm、35mm、85mm、90mm、100mm、180mm、250mmと、ほぼ隙間なく用意されています。
今回分析するZuiko 90mm F2 Macroは、中望遠域ではZuiko100mmF2.0と人気を二分する銘レンズです。
最近のマクロレンズは100mm あるいは105mmのF2.8で等倍撮影可能な仕様が定番となった感じですが、1990年以前までは90mmも多かったように思います。
その理由は100mmのF2.0やF2.8をラインナップしていたメーカーが多かったので、少しずらして90mmとしていたのではないでしょうか?本当の所はわかりません。
また、近年はMacroレンズのFnoと言えばF2.8が当たり前のように思い込んでしまっていますが、なんとこのレンズはF2.0と1段明るいのです。
OMシリーズのレンズはF2.0が多いことを売りにしていたのでMacroでも統一感を出したということなんでしょう。
ただし、このレンズの撮影倍率は1/2倍(ハーフ)仕様で「等倍」までは至りません。
この1/2倍仕様も特別なことではなく、80年代までは1/2倍が主流で、90年代のAF化の流れとともに1/1(等倍)仕様へ各社移り変わってゆきました。
この90mm F2.0は、100mm F2.0と並んで銘玉と称されたレンズですが、フィルムカメラ全盛期の私はZuiko100mmF2.0の方を購入し、この90mmは購入を見送りました。
マクロレンズは別の物を所有していたので、マクロを数本所有するのは当時の若い私には理解しがたい行為だったのです…
後年、フィルムのZuikoシリーズがもう新品では入手困難となる直前(2006年ごろ?)にセール販売されていたこのレンズを新品購入したのですが、フィルム自体が終焉を迎える時期でもあり、単なるコレクションアイテムとなってしまい、ほとんど使う事の無かったレンズです。
悲しい。
文献調査
さて特許文献を調査しますと同時代に複数のマクロレンズの文献が見つかりますが、特開昭62-18513の実施例1は製品の構成とよく似るのでこれを設計値として以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容について簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がzuiko 90 F2.0の光路図です。
レンズの構成は9群9枚、非球面レンズは採用していません。ガウスタイプの像面側に3枚のレンズ配置する構造です。被写体側の第1レンズから第6レンズまでの前側ガウス部分が繰り出す昔ながらの1群フローティング方式のマクロレンズだろうと推測されます。
Zuiko100mmF2.0に比較するとレンズ枚数は増加しており、さて100mmとどちらが性能的に良いのか?気になるところです。
縦収差
球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、ほどよくフルコレクション型に補正されています。g線とC線が球面収差の先端で重なっており互いの色味を緩和させており好印象です。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差もF線もd線がかなり接近しており十分な補正度合いと推測されます。全体にzuiko100mmより好印象です。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲も、適切に補正されており、絞り込みでの変動も球面収差と一致し問題無さそうです。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、望遠域でありますから若干の糸巻きですが実用上は気になる数値ではありません。
倍率色収差
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差は、zuiko 100mmと比較すると2/3程度まで削減されているようです。
横収差
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差を見てみましょう。
Zuiko100mmF2.0とは特に遜色なくむしろ良好に見えます。
サジタル方向の収差量は実質的にレンズ枚数に依存しますので枚数の多いこのレンズが良好なのは当然とも言えます。
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スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
標準スケールではスポットが小さすぎて良くわからないレベルです。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
F線の広がりが若干大きいもののg/C線がまとまっているので色にじみなどは少なそうです。
MTF
開放絞りF2.0
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放でも100mmF2.0より一段良好のようです。後発製品でレンズ構成枚数も多いので当然かもしれませんが。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
コマ収差が絞りでカットされるので山は高くなりますが、解放からある像面湾曲は改善せずに残ります。F4では100mmの方が少し良いでしょうか。十分高性能ですから現代のレンズとも差はあまり感じないでしょう。
総評
Zuiko100mmF2.0と比較しつつ検証した結果、90mmMacroの方が基本的な解像性能は良いと言えそうです。
100mmの方もそつなくまとまっていますが、現代のレンズに比較すれば収差がだいぶ残っています。
オールドレンズ遊びの趣旨的には味のある100mmF2.0の方が目的には合っているのかもしれません。どちらのレンズも銘玉と言われるだけの理由はあったわけですが、複雑な気持ちになる結果です。
ゴーストについては構成枚数の多い90mmMacroの方が目立ちますが、どちらも致命的な物はありませんから大きな差では無さそうです。
長年疑問であったzuiko 90mm vs 100mm 問題に自分で終止符を打つことができたのが今回の最大の収穫でしょうか。
過去に分析したマクロレンズの記事は以下などもありますのでご参照ください。
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関連記事:SIGMA 70mm F2.8 Macro Art
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
マップカメラ楽天市場店もし、ミラーレスカメラをお持ちでしたらマウントアダプターを使用すれば再びZuiko 90mm F2で撮影が可能です。
こちらの商品はOM用ZuikoレンズをソニーのミラーレスカメラのEマウントへ取り付けるためのアダプターです。
OM用ZuikoレンズをニコンのミラーレスカメラのZマウントへ取り付けるアダプターもあります。
このレンズに最適なカメラをご紹介します。
作例
Zuiko 90 F2 の作例集となります。特に注釈の無い限り開放Fnoの写真です。
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製品仕様表
製品仕様一覧表
画角 | 27度 |
レンズ構成 | 9群9枚 |
最小絞り | F22 |
最短撮影距離 | -- |
フィルタ径 | 55mm |
全長 | 71mm |
最大径 | 72mm |
重量 | 550g |