この記事では、ソニーのフルサイズミラーレス用の交換レンズである大口径標準レンズSONY FE 50mm F1.4 GMの設計性能を徹底分析します。
さて、写真やカメラが趣味の方でも、レンズの仕組みや性能の違いがよくわからないと感じませんか?
当ブログでは、光学エンジニアでいわゆるレンズのプロである私(高山仁)が、レンズの時代背景や特許情報から設計値を推定し、知られざる真の光学性能をやさしく紹介します。
当記事をお読みいただくと、あなたの人生におけるパートナーとなるような、究極の1本が見つかるかもしれません。
レンズの概要
SONYのカメラ用交換レンズ部門は、2006年にミノルタを吸収・統合したことから誕生しています。
そこで、まずはミノルタ時代から続くSONYの標準レンズ 50mm F1.4仕様のレンズの系譜を確認してみましょう。
- AF 50mm F1.4 (1985) 6群7枚 Aマウント
- Planar T* FE 50mm F1.4 ZA (2016) 9群12枚 Eマウント
- FE 50mm F1.4 GM 11群14枚 (2023) Eマウント当記事
AF 50mm F1.4は、MINOLTA 時代のレンズで、1985年に世界初のオートフォーカス搭載の本格一眼レフカメラα-7000と供に登場したレンズです。
光学系のタイプはいわゆるダブルガウス型で、後年マイナーチェンジがあったものの、SONYへ移管されて以降も同じ光学系が流用され、長く市場で愛された製品です。
そこから約30年後、2016年にフルサイズミラーレス一眼用として登場したのがPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAです。
FE 50mm F1.4 ZAは、ドイツの名門レンズメーカーZEISSが監修しており、銘レンズの系譜を示すPlanarを冠しています。
関連記事:SONY Planar FE 50mm F1.4 ZA
最後に2023年に発売されたのが、FE 50mm F1.4 GMとなります。
SONYのフルサイズミラーレスが誕生したのは2013年のことですから、2020年も越えますと第二世代と言えるレンズの登場が増えてきました。
FE 50mm F1.4 GMもそのような位置づけの第二世代レンズ製品です。
また、かつてのSONYは、古くから協業関係のあったZEISS監修レンズを重用していたように思いますが、近年はMINOLTAの系譜を継ぐGM(Gマスター)へ傾倒しているように見えます。
近年(2024)は、MINOLTA系のグレード銘のGあるいはGMのレンズが増えていますね。
かつてのMINOLTA系社員がレンズ開発部門のトップの座についたとか、社内政治的な話なんでしょうかね?どなたかタレコミをお願いします。
さて、カメラシステムの顔とも言える大口径標準レンズの第二世代とはいかがなものか?分析してまいりましょう。
文献調査
国際公開の形で出願されているWO2024/166548を見ると実施例1が製品に酷似した設計例であることがわかりますので、これを製品化したと仮定し、設計データを以下に再現してみます。
!注意事項!
以下の設計値などと称する値は適当な特許文献などからカンで選び再現した物で、実際の製品と一致するものではありません。当然、データ類は保証されるものでもなく、本データを使って発生したあらゆる事故や損害に対して私は責任を負いません。
設計値の推測と分析
性能評価の内容などについて簡単にまとめた記事は以下のリンク先を参照ください。
光路図
上図がSONY FE 50mm F1.4 GMの光路図になります。
当ブログが独自開発し無料配布しておりますレンズ図描画アプリ「drawLens」を使い、構造をさらにわかりやすく描画してみましょう。
レンズの構成は11群14枚、色収差の補正に好適な特殊低分散ガラスのEDレンズ(黄色)は1枚、色収差と同時に球面収差や像面湾曲の補正に好適な特殊低分散非球面レンズ(赤)を2枚採用しています。
14枚のレンズ構成ということは、FE 50mm F1.2 GMと同じ枚数ですから、上位モデルである「GM」の銘にふさわしい性能を目指していることがわかりますね。
ピント合わせに際しては、第9レンズと第10レンズを一体で移動させる方式で、フローティングフォーカスのような特殊な機構は採用していないようです。
縦収差
球面収差 軸上色収差
画面中心の解像度、ボケ味の指標である球面収差から見てみましょう、50mm F1.2 GMも分析済ですから驚く程では無いのですが、球面収差は素晴らしく補正されています。
画面の中心の色にじみを表す軸上色収差も、十分に小さい領域ですね。
像面湾曲
画面全域の平坦度の指標の像面湾曲も、極めて美しくまとまっています。
歪曲収差
画面全域の歪みの指標の歪曲収差は、昔の標準レンズに採用されたガウスタイプという光学系は歪曲が-2%ほどになるのが特徴でしたが、近代の構成枚数の多い標準レンズはほとんどゼロに補正することを実現しています。
倍率色収差
画面全域の色にじみの指標の倍率色収差も十分補正されています。
近年は、高級レンズでも画像処理による補正を前提とするレンズも増えていますが、このレンズは光学的にすべての収差補正を行う方針のようです。
星景写真など解像度にこだわる撮影には、光学的に整えられているのが最も重要ですから、歪曲収差が少なく倍率色収差も十分抑えられている当レンズは絶賛されるべきレンズですね。
横収差
画面内の代表ポイントでの光線の収束具合の指標の横収差として見てみましょう。
左列タンジェンシャル方向は、全域でコマ収差(非対称)成分が小さいようです。
右列サジタル方向は、大口径レンズにありがちなサジタルコマフレアがまったくありません。
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スポットダイアグラム
スポットスケール±0.3(標準)
ここからは光学シミュレーション結果となりますが、画面内の代表ポイントでの光線の実際の振る舞いを示すスポットダイアグラムから見てみましょう。
収差図を見ている段階でもわかっておりましたが、こちらの標準スケールでは判断不能なほどに小さいですね。
スポットスケール±0.1(詳細)
さらにスケールを変更し、拡大表示したスポットダイアグラムです。
拡大すると少し形状のいびつさがわかるものの、画面の中心(グラフ上段)と画面の周辺(グラフ下段)でスポット形状の差が少ないですね。
驚異的です。
MTF
開放絞りF1.4
最後に、画面内の代表ポイントでの解像性能を点数化したMTFによるシミュレーションの結果を確認してみましょう。
開放絞りでのMTF特性図で画面中心部の性能を示す青線のグラフを見ると0.9を軽く超え、画面の周辺の像高18mm(オレンジ)でも0.8を超えています。
全体としてのバランスが非常にすばらしいですね。
小絞りF4.0
FnoをF4まで絞り込んだ小絞りの状態でのMTFを確認しましょう。一般的には、絞り込むことで収差がカットされ解像度は改善します。
開放Fnoの状態が素晴らしいので、逆に大きな変化はありません。高性能レンズの贅沢な悩みですね。
総評
過去に分析したFE 50mm F1.2 GMも超大口径レンズとしては素晴らしい性能でしたが、MTFまで見ますと設計の苦しさが少々にじみ出ています。
FE 50mm F1.4 GMは、システムの顔たる標準レンズとして光学的に収差を徹底して抑え素晴らしい性能でありながら、価格やサイズと重量などに対して偏りの無いまさに「バランスされた」総合力が高いと評すべき1本ですね。
以上でこのレンズの分析を終わりますが、最後にあなたの生涯における運命の1本に出会えますことをお祈り申し上げます。
LENS Review 高山仁
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製品仕様表
製品仕様一覧表 ----------------
画角 | 47度 |
レンズ構成 | 11群14枚 |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 0.38m |
フィルタ径 | 67mm |
全長 | 96mm |
最大径 | 80.6mm |
重量 | 516g |
発売日 | 2023年4月21日 |